漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
つい昨日のことが思い出せない、人の名前が出てこない…。日常生活の中で起こるそんな物忘れはありませんか?
「年だから」と諦めがちですが、健忘症は脳を健やかに保つことで予防・改善できるもの。
そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、健忘症対策を分かりやすく説明します。
よく物忘れをする、スムーズに言葉が出てこない、頭がぼーっとする、集中力が続かない…。
こうした「健忘症」の症状は、脳に栄養と酸素を運ぶ「血」や、脳のエネルギーとなる「気」が不足することで起こると中医学では考えます。
脳の気血不足と深く関わるのは、五臓の「心(しん)」と「脾胃(ひい)」(胃腸)の不調。心は血を全身に送り、脾胃は食事の栄養から気血を生み出す働きを担っています。
そのため、心と脾胃の働きが低下すると、脳に十分な気血が行き渡らず、物忘れなどが起こりやすくなるのです。
また、気の巡りをコントロールする「肝(かん)」(肝臓)の機能低下、「瘀血(おけつ)」(血行不良)などの状態も、脳の気血不足を招く要因となります。
もう一つ、中医学では、脳は「腎」が蓄える「精」(生命エネルギー)によって維持されていると考えるため、腎の機能低下も健忘症の大きな要因に。加齢などで腎が弱くなると、精が不足して脳の機能も衰え、物忘れや記憶力の低下が起こりやすくなるのです。
物忘れが増えるのは不安なものですが、年齢を重ねれば記憶力が低下するのは自然なこと。あまり深刻に悩むと症状を悪化させてしまうこともあるので、気持ちにゆとりを持って過ごすことも大切です。
日々の養生で身体をきちんとケアしながら、脳の働きを健やかに保つよう心がけましょう。
健忘症は高齢者特有の悩みと思われがち。ところが、最近は物忘れに悩む若い人も増えていると言われます。物忘れが気になり始めたら、年齢を問わず積極的な「脳」のケアを心がけましょう。
物忘れ、集中力の低下、疲労感、かぜを引きやすい、動悸、不眠、食欲不振、冷え症、下痢をしやすい、舌の色が淡い
中医学では、脳の働きは「血」が運ぶ栄養や酸素、「気」のエネルギーによって保たれていると考えます。そのため、全身に血を送る「心」や、食事の栄養から気血を生む「脾」に不調があると、脳の気血が不足して物忘れなどが起こりやすくなるのです。
対策の基本は、心と脾胃を健やかに保ち、気・血を十分に養うこと。慢性病で体力を消耗している人、更年期の人、食生活が乱れがちな人などは、特に気血が不足しやすいので積極的な養生を。
また、高齢の人は食が細く低栄養になりがちなので、日頃から“しっかり食べる”ことを意識しましょう。
胃腸にやさしく、甘味のある食材:米、いんげん豆、大豆製品、ぶどう、りんご、ライチ、竜眼肉、人参、豚ヒレ肉、鶏肉、鮭、ヨーグルト など
情緒が不安定になると物忘れが悪化する、憂うつ、イライラ、情緒不安定、胸が重苦しい、不眠、頭痛、めまい
※気が滞って体内の水分が停滞すると、脂質異常症(高脂血症)、身体が重い、痰が出やすいなどの症状が現れることもあります。
「肝」はストレスをコントロールし、体内の「気」の巡りをスムーズに保つ役割を担っています。ところが、過剰なストレスを受けるとその機能が低下し、気の流れが滞ってしまいます。
また、気は「血」の流れをサポートしているため、気の停滞が長引くと「瘀血(おけつ)」(血行不良)につながることも。結果、脳の働きを支える気血が十分に行き渡らず、物忘れなどが起こりやすくなるのです。
このタイプは、情緒が不安定になると健忘症の症状も強くなることが特徴。ストレスを感じたら早めに発散させるよう心がけ、気持ちを穏やかに保ちましょう。
・香りの良いものでストレス発散:しそ、菊花、ネムノキの樹皮、ちんぴ(乾燥したみかんの皮)、玫塊花(まいかいか) など
・「湿(余分な水分や汚れ)」を取り除いて、気の流れを良く:はと麦、どくだみ、冬瓜、トマト、緑豆 など
物忘れ、頭痛、胸痛、胃痛、腹痛、関節痛、手足のしびれ、しこり、顔色の黒ずみ、舌の色が暗い
脳の健やかな働きを保つためには、「血」が運ぶ栄養や酸素が不可欠。そのため、「瘀血(おけつ)」(血行不良)によって血がスムーズに行き渡らなくなると、脳の機能が低下して物忘れなどを起こしやすくなります。
瘀血の要因は、運動不足、疲労、ストレス、食事の不摂生、冷えなどさまざま。「気になる症状」に思い当たるものがあれば、この機会に生活習慣を見直してみましょう。また、狭心症や動脈硬化症、高血圧などの生活習慣病を患っている人は、瘀血を起こしやすいので要注意。
日頃の積極的な養生で、血行をスムーズに保つよう心がけてください。
血管を柔軟に保ち、血行をスムーズに:サンザシ、黒きくらげ、黒豆、小豆、玉ねぎ、セロリ、らっきょう、きのこ類、昆布、酢 など
物忘れ、記憶力の低下、集中力の低下、耳鳴り、聴力の低下、めまい、脱毛、白髪、腰痛、骨密度が低い、むくみやすい、頻尿、冷え、舌の色が淡い
中医学では、脳は「腎」が蓄える「精」(生命エネルギー)によってその機能が維持されていると考えます。そのため、加齢などで腎が衰えると、精が不足して脳の萎縮や機能低下を招くことに。その結果、物忘れや記憶力の低下などが起こりやすくなるのです。
身体の老化と深く関わる腎を養うことは、健忘症を始め、聴力の低下、腰痛、頻尿など、老化によるさまざまな不調の緩和にもつながります。積極的な養生で脳と身体を健やかに保ち、人生をいきいきと楽しく過ごしましょう。
腎を養い、精を補う食材:白きくらげ、クコの実、くるみ、黒豆、黒ごま、栗、きのこ類、にら、ラム肉、うなぎ、霊芝茶
・気持ちをリラックス。物忘れを気にしすぎないことが大切。
・趣味や会話を楽しみ、“笑う”ことを心がけて。
・両手を使って歯磨き、肩もみなど、脳に適度な刺激を。
・食事は「薄味」で「温かいもの」を「ゆっくり」「気持ちよく」。
・散歩やラジオ体操など、外に出て身体を動かして。
・花見、森林浴、温泉など、自然を楽しむこともおすすめ。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
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