よく分かる中医学vol.2-「腎」の働き- - 漢方・中医学の情報サイト|COCOKARA中医学

STUDY中医学の基礎

よく分かる中医学vol.2
-「腎」の働き-

2017.10.17 UPDATE

監修:菅沼 栄先生(中医学講師)

中医学では「五行学説」という考えがあり、宇宙や自然界、ものごとを構成するすべてのものは「木(もく)・火(か)・土(ど)・金(こん)・水(すい)」のいずれかの特性を持つと考えます。
この法則に人体を当てはめて分類したものが五臓「肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺・腎」です。
中医学では、五臓を中心に体の働きをとらえ、五臓がバランスよく働いている状態が健康と考えます。中医学でいう五臓とは単に解剖学的な肝臓や腎臓などの臓器を指すだけでなく、様々な機能(物質代謝や精神活動)をも含み、五臓それぞれが互いに影響しあって生命を支えていると考えています。
今回は、五臓の中から「腎」の働きについてご紹介します。

腎は生命の源。日頃の養生が老化予防に。

「腎」は身体の中で最も大切な臓器の一つ。中医学では、広く生殖や成長・発育、ホルモンの分泌、免疫系などの機能を併せ持つ“生命の源”と考えられています。
腎の主な働きは、生命を維持するエネルギー源「精」(成長・生殖機能)を蓄え、体内の水分をコントロール(排尿機能)すること。その他、酸素を体内に深く吸い込む納気機能、骨や歯、脳、髪などの生育、耳や尿道、肛門の機能維持、といった働きもあります。
このように、腎は身体全体の健康と深く関わっています。そのため、腎に蓄える精が不足して機能が衰えると、不妊症や精力の減退、更年期障害、骨粗鬆症、排尿トラブル、脱毛、健忘症、聴力の低下といったさまざまな不調や老化現象が現れるのです。また、腎が弱くなると他の臓器にも影響するため、身体の免疫力や回復力が低下してしまうことも。
これは、反対に考えると身体の不調が腎の状態を教えてくれるということ。腎の精は加齢によって自然に減っていくため、自分の年齢や身体の状態をチェックしながら積極的に養生することが大切です。
また、特に冬は、五行学説で考えると「腎」にあたる時期。腎は寒さに弱いため、身体が冷えたり不摂生な生活を続けると、機能が衰えやすくなってしまいます。積極的な養生を心がけ、腎を健やかに保ちましょう。

「腎」の5つの働き

西洋医学で考える「腎臓」の役割にとどまらず、中医学で考える「腎」には全身の健康に関わるさまざまな働きがあります。

 

●生命エネルギーの源「精」を貯蔵する
「精」は、生命活動を維持するための基本物質。親から受け継ぐ「先天の精」と、飲食物から得る「後天の精」があり、どちらも腎に蓄えられて成長や発育、生殖の基礎となります。
腎がしっかりして精が十分にある人は、若々しく身体も元気。老化による不快な症状も現れにくく、更年期や老後も穏やかに過ごすことができます。
反対に、腎が弱く精が不足していると、更年期障害を始めとする老化の症状、不妊、冷え、免疫力の低下などさまざまな不調が起こりやすくなります。
●水分を管理して尿を排泄する
腎は、脾や肺と協力し合って体内の水分代謝をコントロールし、尿を生成・排泄する役割を担っています。この機能が衰えると、頻尿や尿漏れ、残尿感といった排尿のトラブルが起こりやすくなります。
●酸素を体内に深く吸い込む(納気)
納気とは、酸素を深く吸い込んで体内に取り入れること。呼吸は肺が行っていますが、腎はその“吸う機能”をサポートしています。そのため、腎が弱くなると呼吸が浅くなったり息切れしやすくなったりすることも。
深呼吸は腎を鍛えることにもつながるので、意識してしっかり呼吸をするよう心がけましょう。
●骨・脳・髪を育む
腎は、骨や歯の生育、脳の健康、髪の成長などにも深い関わりがあります。そのため、この機能が衰えると、骨粗鬆症や腰痛、健忘症、めまい、脱毛、白髪といった症状が現れるようになります。
●耳・尿道や生殖器官・肛門の機能維持
腎は「耳と二陰に穴を開く」といい、耳や尿道、生殖器官、肛門の機能と深い関わりがあります。この機能が衰えると、耳鳴りや聴力の低下、排尿、排便のトラブルなどが起こりやすくなります。
今回は「腎」の働きについてご紹介しました!
次回は、暮らしに役立つ「腎」の養生についてお伝えします。

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この記事を監修された先生

中医学講師菅沼 栄先生

1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。