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暑さに関係なく、ダラダラと汗をかいてしまう「多汗症」。ただの汗っかきと思われることも多い症状ですが、重症になると生活や仕事に支障をきたしてしまうこともあります。“汗が多いな”と感じている人は、自分の体質を見直して不快な症状を改善しましょう。
「気」の不足や過剰な「熱」が多汗の要因に
「多汗症」は、体温調節に必要な量以上に、発汗が多くなってしまう症状のこと。基本的な要因は自律神経の失調ですが、その原因はストレス、ホルモンバランスの乱れ、遺伝などさまざまで、原因が不明なことも少なくありません。また、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、更年期症候群、結核などの病気が原因で発症するケースもあります。
中医学では、多汗症の症状を「汗証(かんしょう)」と捉えます。汗証でもっとも多く見られるのは、気温に関わらず日中しきりに出る「自汗(じかん)」と、夜間に出る寝汗「盗汗(とうかん)」。
こうした症状は、汗をコントロールする働きが弱くなる“肺気不足”、潤い不足で体内に熱がこもる“ 陰虚火旺(いんきょかおう)”、過剰なストレスで湿(余分な水分や汚れ)や熱が発生する“肝鬱脾虚(かんうつひきょ)”といった不調が要因で起こると考えます。
【汗の基礎知識】
中医学には「汗血同源(かんけつどうげん)」という言葉があります。これは、汗も「血」も体内の「津液(しんえき)」(水分や潤い)が源になっているということ。
そのため、出産や生理で出血が多い時は汗が少なくなり、汗が過剰に出ると血不足につながります。また、気・血・津液は体内を一緒に巡っているため、多量の汗で津液を消耗すると、潤い不足によるドロドロ血や気の不足を招くこともあります。
check!タイプ別・多汗症対策
一般的には“日常生活に支障をきたすほどの汗”を多汗症と捉えますが、汗の症状には個人差があります。それほど多量の発汗でなくても、自汗や盗汗が気になる人は体内に不調があるサインと考え、積極的に体質を整えましょう。
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サラサラ汗の
「肺気不足」タイプ
- 気になる症状
- 自汗(サラサラ汗)、動いていないのに汗が出る、かぜを引きやすい、疲労感、顔色が白い、舌の色が淡い
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- 改善ポイント
肺の「気」(エネルギー)には、固摂作用(こせつさよう)という、体内の水分が体表から漏れ出さないよう発汗をコントロールする働きがあります。肺気が不足していると、こうした作用が低下して汗の量をうまく調節できず、ダラダラと必要以上に汗をかいてしまうのです。
このタイプの汗は「自汗」(気温に関わらず日中しきりに出る汗)で、サラサラしていることが特徴。汗をかくと体内の「気」も一緒に消耗してしまうため、長引くとさらに肺気が不足して、症状が重くなってしまうことも。気になる症状がある人は、早めの対処で不足しがちな気を補うよう心がけましょう。
- 摂り入れたい食材
- ページ下部の暮らしのポイント参照
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2
ベタベタ汗の
「潤い不足」タイプ
- 気になる症状
- 盗汗(ベタベタ汗)、微熱、手のひらや足の裏の熱感、口や喉の渇き、便の乾燥、舌が紅く舌苔が少ない
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- 改善ポイント
体内の潤いは「陰」、熱は「陽」にあたります。そのため、体の潤いが不足すると陰陽のバランスが崩れ、熱が旺盛な状態に。その結果、体内に余分な熱がこもり、汗をかきやすくなってしまうのです。
このタイプは「盗汗」(夜間に出る寝汗)が多く、ベタベタの汗が特徴。上半身のほてりやのぼせ、手のひらや足の裏の熱感などの症状があり、更年期の多汗にもこのタイプが多くみられます。
養生の基本は、不足しがちな潤い(血や津液)を補い、体の熱を冷ますこと。体内の陰陽バランスを整え、汗やほてりの症状を緩和しましょう。
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3
ベタベタ汗の
「ストレス」タイプ
- 気になる症状
- 緊張やストレスによる発汗、憂うつ、焦燥感、動悸、不眠、緊張しやすい、口の苦み、口の粘つき、口臭、舌がやや赤い、舌苔が黄色くベタつく
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- 改善ポイント
「肝(かん)」(肝臓)はストレスを発散させ、体内の「気」(エネルギー)の巡りをスムーズに保っています。ところが、過剰なストレスを受けるとこの機能が低下し、気の巡りが滞りがちに。すると、気のエネルギーが停滞して、体内に熱が発生します。
また、ストレスは「脾胃(ひい)」(胃腸)の不調にもつながるため、水分代謝の悪化を招いて「湿」(余分な水分や汚れ)も溜まりがちに。その結果、体内に過剰な熱と水分が溜まり、汗をかきやすくなってしまうのです。
このタイプは緊張やストレスで汗をかきやすいので、なるべく気持ちを穏やかに保つよう心がけて。また、肝と脾胃を健やかに保ち、体内の熱と湿をすっきり取り除きましょう。
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point!暮らしのポイント
・汗をかいたらこまめにシャワーを。皮膚を清潔に保ちましょう。
・睡眠を十分にとり、疲労やストレスを溜めないよう心がけて。
・多量の汗は「気」(エネルギー)の消耗を招きます。食事をしっかり取って体力を養いましょう。
・陽気を全身に巡らせるためにも、適度な運動を習慣に。
・ストレスは多汗の要因に。気持ちにゆとりを持って過ごすよう心がけましょう。
【体質を問わず、汗が多い時に摂りたい食材】
潤いと気を養う:小麦、もち米、大豆、黒豆、山芋、麩、なつめ、クコの実、桑の実 など
汗を収れんする:梅、レモン、 銀杏、蓮の実、五味子(ごみし)、酸棗仁(さんそうにん) など
熱を冷まし利水する:すいか、きゅうり、苦瓜、れんこん、とうもろこし、緑茶 など
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
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PROFILE
中医学講師/監修 菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。
1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
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