漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
突然ですが、立ちくらみやめまいなどを経験したことはありませんか?特に女性は男性に比べて貧血になりやすく、10人に1人は貧血といわれるほど身近な症状です。
貧血は、軽い場合でもさまざまな臓器に影響することがあります。
そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、貧血の対策について分かりやすく説明します。
貧血は血液中の赤血球やヘモグロビンが少なくなった状態で、主に鉄欠乏症貧血、溶血性貧血に分けられます。
一般的な貧血は鉄分の不足による鉄欠乏症貧血で、疲れやすい、めまいや立ちくらみがする、少し動いただけでも息切れする、といった症状がみられます。
中医学では、このような状態を「血虚(けっきょ)」と考えます。血虚とは、「血」が不足して全身に十分行き渡らなくなる状態のこと。
血は、身体を巡って栄養・潤い・酸素などを届ける、身体を温める、精神を安定させる、といった働きを担っています。そのため、血が不足すると全身の臓器や細胞に影響し、疲労やめまい、息切れ、冷えといったさまざまな症状が現れるのです。
貧血と血虚は一見同じような症状ですが、中医学では検査の数値ではなく、症状や身体の状態から判断することが特徴。
そのため、たとえ検査値が正常でも、顔や唇の血色が悪い、皮膚が乾燥している、髪のツヤがない、精神の不安定、といった症状があれば、血虚の状態と考えて改善を心がけます。
現代女性は、血虚の状態が多く当てはまると言われています。
特に重い症状でなくても、血虚の状態は婦人科疾患や美容のトラブルにつながることが多いもの。身体のサインを感じたら、早めに対処するよう心がけましょう。
中医学には「女子は血を以(もっ)て本となす」という言葉があるほど。女性にとって「血(けつ)」は大切なものです。毎日の食事は、貧血予防の大切なポイント。「主な症状」を参考に自分にあった食養生を知り、血不足の改善をめざしましょう。
顔色が白い、めまい、立ちくらみ、疲れやすい、息切れ、動悸、記憶力の低下、月経不順、月経量が少なく色が薄い、脱毛、若白髪、冷え性、舌の色が淡い
【臓器や細胞に栄養が届かず、さまざまな不調が現れる】
豊富な栄養素を持つ「血(けつ)」は、全身を巡って臓器や細胞に栄養を届けています。中医学では、これを血の「栄養機能」といいますが、血が不足してこの働きが低下すると、疲労や立ちくらみ、動悸、息切れなどの症状が現れます。
また、血には身体を温める働きもあるため、冷えの症状を感じることも。緑黄色野菜や黒色の食材を積極的に摂って、足りない血を補うよう心がけましょう。
緑黄色野菜や甘みのあるもの、黒いものを中心に:
なつめ、クコの実、落花生(薄皮も一緒に)、にんじん、ほうれん草、黒ごま、黒砂糖、レバー、鶏肉、豚肉、鮭、ぶどう、大豆、きなこ
顔色に艶がない、化粧ノリが悪い、皮膚の乾燥、目や口の乾燥、髪のパサつき、便秘気味、関節の動きが悪い(スムーズに動かない)、舌の苔が少ない
【肌や髪の乾燥が気になったら要注意】
「血」には体内を潤す成分が多く含まれているため、血が十分にあれば身体を内側から潤すことができます。反対に、血が足りなくなると潤いも不足し、皮膚や目の乾燥、髪のパサつきなどが気になるように。
みずみずしい肌や髪を保つためにも日頃の食生活に気を配り、身体の潤いをしっかり守りましょう。
血を補う食材(「体内の栄養不足」タイプ参照)に加え、潤い効果の高い食材を積極的に:
白きくらげ、バナナ、りんご、桃、いちじく、キウイ、いちご、海草類、豆腐、卵、オリーブオイル、豚足、手羽先、蜂蜜
情緒不安定、ストレスに弱い、落ち込みやすい、月経前後の不安、睡眠障害(寝付きが悪い、眠りが浅い、目覚めが早いなど)
【精神的な症状も「血」の不足が原因に】
「血」は、イライラやストレスを静めて精神を安静にする働きがあります。そのため、体内の血が不足するとストレスの影響を受けやすくなり、情緒が不安定になったり、睡眠障害に悩まされたりすることも。
足りない血を補いながら、ストレスを上手に発散できるよう香りのよい花茶などで気分をリラックスさせましょう。
血を補う食材(「体内の栄養不足」タイプ参照)に加え、気分を落ち着かせるお茶や食材を:
菊花茶、キンモクセイの花茶、ミントティー、小豆、百合根、小麦、粟、竜眼肉、蓮の実
かつて、食生活がそれほど豊かでなかった時代には、「栄養をしっかりとらないと!」という意識が日常にあり、食事にも自然と気配りがありました。ところが、生活が豊かになると栄養に対する意識は薄れ、好きなものを好きなだけ食べる、という食生活が増えているように感じます。
食の豊かな現代に貧血が増えているのは、こうした食生活の偏りが一番の原因。過度なダイエットも貧血を招く大きな要因となるので注意が必要です。毎日を健康に過ごすためにも、まずは普段の食事を見直して、バランスよく栄養を摂るよう心がけましょう。
【暮らしの貧血予防】
・食事のバランスを大切に
・濃いお茶やコーヒーはなるべく控えて
・飲み物や食事は温かいものを
・過激な運動は避け、ウオーキングなど適度な運動を
・無理なダイエット、朝食抜き、夜更かしなどの不規則な生活は見直しましょう。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
ABOUT
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