漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
突然ですが、低血圧が気になったことはありませんか?重大な病気につながりやすい高血圧に対し、低血圧の症状は見過ごされがち。日常的な疲れやだるさに悩んでいても、周りからは理解されにくく、がまんしている人も多いのではないでしょうか。
低血圧の周辺症状は、その原因を取り除くことで改善できるもの。
そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、低血圧対策を分かりやすく説明します。
特に病気ではないのに、なんとなく身体がだるい、すぐに疲れてしまう……。そんな不調が続いている人は、「低血圧」がその原因となっているかもしれません。低血圧は、血圧が正常よりも低い状態のこと。明確な基準はありませんが、一般的には収縮期血圧(最高血圧)が100~110mmHg以下※の状態を低血圧の目安としています。
血圧が低いと、栄養や潤いを運ぶ「血」を全身に十分行き渡らせることができません。そのため、疲労感やめまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、食欲不振、吐き気など、さまざまな不調が起こりやすくなるのです。
中医学では、低血圧の不調に対し、全身症状からその根本となる原因を見つけて対処します。主な原因となるのは「胃腸虚弱」「血不足」「腎の虚弱」「肝の不調」など。こうした不調を取り除き、体質を健やかに整えることで低血圧を改善していくのです。
はっきりとした病気ともいいにくい低血圧の不調は、”怠けているだけ”と思われがち。精神的な負担にもなりやすいので、きちんと改善して元気な毎日を取り戻しましょう。
※数値を基準とする西洋医学と、全身症状から対処法を考える中医学では捉え方が異なります。治療や薬などについては、薬局・薬店でよく相談してください。
*低血圧は病気が原因で起こることもあります。気になる場合はまず医師の診察を受けましょう。また、血圧が低くても、特に不調がなければ問題ない場合もあります。
西洋医学では明確な診断基準がない低血圧。こうした不調は、症状から対処法を考える中医学の得意分野です。あきらめていた人も、この機会に体質をしっかり整えて不調を解消しましょう!
疲労感、倦怠感、気力がない、息切れ、立ちくらみ、食欲不振、お腹の張り、軟便、下痢、冷え、かぜを引きやすい、慢性疾患がある、舌の色が淡く苔が白い
体内の「気」は、心臓のポンプを押して「血」を送り出すエネルギー源です。ところが、「脾胃(ひい)」(胃腸)の働きが弱くなると気や血を十分に生み出せず、体内の気血が不足した状態に。その結果、ポンプを押すエネルギーが足りなくなり、血の量も減って、血圧が低くなってしまうのです。
食べ過ぎ、飲み過ぎ、油っこい食事や冷たいものの摂り過ぎなど、食事のバランスが崩れている人は脾胃の不調を起こしやすので気を付けて。食生活をきちんと見直して、脾胃の働きを健やかに保ちましょう。
脾胃を養い、温性の食材で”上昇”を促す:山芋、いんげん豆、かぼちゃ、大豆製品、うなぎ、太刀魚、牛乳、鶏肉、豚肉、米、白きくらげ、シナモン、しょうが、フェンネル、ねぎ、紅茶 など
めまい、立ちくらみ、冷え、乾燥(皮膚、髪、目、口など)、顔色が白い、艶がない、動悸、月経不順・月経量が少なく色が薄い、記憶力の低下、脱毛、若白髪、便秘、舌の色が淡い
月経や出産、疲労、睡眠不足、病気の消耗、加齢などが原因で体内の「血」が不足すると、血管を流れる血量が低下して低血圧を招く要因となります。また、栄養や潤いを運ぶ血が不足すると、血管が十分に養われず、血管力(健やかな血管で血液をスムーズに流す力)が低下した状態に。その結果、血を流す力が衰えて低血圧を招くこともあります。
血不足の状態は、身体のさまざまな不調につながるので放っておいてはダメ。食事のバランスや睡眠に気を配り、血をしっかり養うよう心がけましょう。
“甘味”と”黒”の食材で血を養う:
ナツメ、クコの実、落花生、にんじん、ほうれん草、黒ごま、黒砂糖、レバー、鶏肉、豚肉、鮭、ぶどう、大豆、赤ワイン など
無気力、腰痛、腰がだるい、冷え、夜間頻尿、耳鳴り、聴力の低下、めまい、物忘れ、脱毛
生命エネルギーの源である「腎」の働きが衰えると、身体のパワーが落ちて臓器の働きも低下し、血圧の低下を招きやすくなります。
腎は老化症状と関わりが深く、加齢とともに自然と衰える臓器。そのため、高齢者は特に注意が必要です。無気力、腰痛、夜間頻尿、物忘れ、聴力の低下といった不調を感じたら、腎の働きが落ちているサインと考え、積極的にケアしましょう。
「腎」を養う温性の食材を:くるみ、ごま、松の実、クコの実、桑の実、黒豆、山芋、にら、えび など
<![CDATA[
精神を安定させ、「肝」を養う:百合根、小麦、金針菜(きんしんさい)、花茶(ジャスミン、キンモクセイ、ライラック、菊など)、あわび、牡蠣、ヨーグルト、ウコン など
イライラ、怒りっぽい、不眠、不安感、胸苦しい、のどの閉塞感、頭痛、月経不順
自律神経には血圧を調節する働きがありますが、過剰なストレスで自律神経に障害が起こると、血圧の低下につながることも。そこで大切なのが、ストレスのコントロールです。
中医学では、ストレスを発散させるのは「肝(かん)」の働きと考えます。ところが、肝はストレスに弱く、日常的にストレスを受けていると機能が低下してしまうことも。結果、ストレスを上手く解消できなくなり、自律神経の失調から低血圧を起こしてしまうのです。
イライラや不眠などに悩んでいる人は、日頃の“こまめなストレス発散”を。肝の働きを守って、気持ちを安定させるよう心がけましょう。
めまいや立ちくらみなど、貧血と低血圧は一部の症状が似ていますが実際は違うもの。貧血のめまいなどは、血液に含まれる赤血球やヘモグロビンの減少によって起こる症状。一方、低血圧は、脳や身体の末端に十分な血液が送られずに起こる症状です。
【健康的な暮らしのポイント】
・肉、野菜、海草類など、バランスの良い食事でしっかり栄養を。
・温かい飲食、毎日の入浴などを心がけ、冷えを防いで血行を良く。
・早寝早起きの習慣を。
・ウオーキングや太極拳、水泳など、無理のない運動で身体を動かして。
・めまいや立ちくらみを防ぐため、空腹時の激しい運動は控えましょう。
【低血圧の不調に効くツボ】
百会(ひゃくえ):左右の耳の上から結んだ線の中央。不眠や頭痛を改善します。
足三里(あしさんり):膝頭の外側の下にできるくぼみから指4本下。胃腸の症状を緩和します。
涌泉(ゆうせん):足裏の中心より上の方、足指を曲げると「人」の字状の交点にできるくぼみ。だるさ、疲れを緩和します。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
ABOUT
こころとカラダのこと、
ちゃんと知りたい
中医学はあなたの体調・体質に合わせて、つらい症状に対処し、元気とキレイを提案します。私たちは日々様々なストレスにさらされ、気づかないうちにこころもカラダも疲れています。病気ではないけれどなんとなく調子が悪い、改善されない不調がある。そんな方に、中医学の考え方をご紹介します。