漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
ほてり、発汗、イライラ…。こうした更年期の症状は、女性だけでなく男性にも現れるものです。知っていましたか?
加齢と上手に付き合っていくためにも、「男性更年期」についてきちんと知っておきたいですよね。
そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、男性更年期について分かりやすく説明します。
女性は7の倍数。男性は8の倍数。中医学では、この節目で人の体質に変化が訪れると考えます。
老化が始まる年齢は、個人差もありますが女性が35歳、男性はそれより少し遅く40歳を迎える頃。この時期から徐々に体力や気力、性機能などが低下し、さまざまな不調が現れるようになります。
その後、40代後半になると排尿の機能が衰え、56歳からは老化が本格的に。腰や膝の痛み、インポテンツといった悩みが増えます。
定年を迎えると精神的にも不安定になりやすく、不眠や鬱などの症状が現れることもあります。
このような不調には、加齢による「腎」の衰えが大きく影響しています。腎は生命エネルギーの源「精」を貯える大きな臓器ですが、更年期に入るとその機能は自然と衰えます。また、体内の臓器はそれぞれが協力しあって働いているため、腎が弱くなると他の臓器にも影響し、体力や免疫力が落ちたり、性機能が衰えたりといった不調が現れるようになるのです。
特に男性の身体は腎と深い関わりがあるため、腎を健康な状態に保つ方法を考えることが大切。
また、「気」「血」の不足、ストレス、生活習慣の乱れなども更年期症状の原因となります。
まずは自分の身体の変化を知り、それぞれに合った対処法で更年期を穏やかに過ごしましょう。
更年期の不快な症状は、体質を整えることで和らげることができます。主な症状から自分の体質を知り、早めの養生で身体の中から予防・改善していきましょう。
めまい、耳鳴り、記憶力の低下、脱毛、足腰の弱り・痛み、性欲の減退、性機能の低下、手足の冷え、舌の色が薄い
【腎の機能アップで老化をゆるやかに】
「腎」は、生命エネルギーの源「精」を貯える一番大切な臓器。腎とは単に内臓のひとつをさすのではなく、泌尿生殖系、ホルモン系、カルシウム代謝、免疫系などさまざまな働きを意味します。
しかし、更年期が始まる40歳ごろから腎の機能は徐々に低下。貯えている精も減少し、体力や性機能の衰え、脱毛、排尿トラブルといった症状が徐々に現れます。また、腎の機能が弱くなると他の臓器にも影響し、さまざまな不調を引き起こすのです。
加齢に加え、過剰な性生活や食事の不摂生、病気による消耗なども腎が衰える原因になります。生活習慣の改善と腎の養生で更年期の症状を予防、改善するよう心がけましょう。
腎を補い、「精」(生命エネルギーの源)の減少を防ぐ食材を。:
スッポン、ナマコ、羊肉、豚マメ(豚の腎臓)、穴子、海老、山芋、くるみ、ごま、にら、にんにく
疲れやすい、無気力、集中力の低下、めまい、動悸、不安や不眠、食欲不振、下の色が薄い
【「脾胃(ひい)」(消化器系)を強くして体力・気力をアップ】
「気」(体内のエネルギー)や「血(けつ)」は健康の基本となる大切な要素ですが、「脾胃」の働きが弱くなると、この気血を十分に作ることができなくなってしまいます。
体内の気血が不足すると、内臓の働きが悪くなり、疲れやすい、食欲不振、動悸、不眠といったさまざまな症状が現れるように。脾胃の不調は、不規則な食生活や睡眠不足、胃腸の疾患などが原因となります。脾胃に負担をかけない生活で、気血を十分に養うよう心がけましょう。
気・血を養い、身体にうるおいを与えるものを。:
百合根、小麦、金針菜(きんしんさい)、蓮の実、ナツメ、烏骨鶏、卵、鮭、鰻、もち米
ストレスが多い、憂鬱、怒りっぽい、頭痛、肩こり、のぼせ、ほてり、胸脇や腹部の張り、ため息、舌の色が暗い
ストレスを調節し、体内の気をスムーズに巡らせるのは「肝」の役割。過度なストレスが続くとその機能が低下し、気の流れが停滞してイライラや憂鬱、のぼせなどの症状につながります。
日頃ストレスを感じやすい人は、肝の働きを高めて上手に発散できるようにしましょう。
溜まったストレスを発散して、滞った気の流れをスムーズに。:
菊花茶、ハマナスの花茶、ジャスミン茶、黒きくらげ、みかんの皮、ライチ、柑橘類
体重の増加、頭や身体が重い、皮膚の湿疹、尿の色が濃い、舌の苔が多い
【溜まった汚れを取って気血の流れをスムーズに】
脂っこい食事や飲酒、運動不足などが重なって太りぎみになると、体内に「湿熱」(余分な水分や汚れ)が溜まり、「気」や「血」の流れを滞らせててしまいます。
このような状態になると、更年期のさまざまな症状も回復しにくくなり、慢性化につながることも。また、脂質異常症や糖尿病といった生活習慣病にもかかりやすくなるため注意が必要です。
溜まった汚れは早めに取り除き、更年期の症状から回復しやすい健康な身体をつくりましょう。
利水作用のあるお茶や食材を積極的に摂り、体内の汚れを排泄。:
鯉、ヘチマ、雑穀、蓮の葉茶、小豆、緑豆、はと麦、オオバコ茶、ともうろこしの髭茶(ひげちゃ)
責任感が強くて几帳面。そんなまじめな人ほど、更年期の症状に悩まされることも多くなります。睡眠をしっかりとる、こまめに身体を動かす、趣味を楽しむなど、普段から意識してストレスを溜めない工夫をしてください。
更年期は誰にでも訪れるもの。体質の変化に応じて身体を整えながら、あまり悩まず上手に加齢と付き合っていきましょう。
<もやもやした頭がスッキリするツボはここ!>
・印堂(いんどう):イライラや精神の不安定に
陥没している眉間の中央
・太陽(たいよう):目の疲れや偏頭痛に
こめかみのやや目尻寄りのくぼみ
・風池(ふうち):頭痛や肩こりストレスに
首の付根、後頭骨の下のくぼみのところ
・合谷(ごうこく):肩こりや頭痛に
手の甲、人差し指の骨のキワ
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
ABOUT
こころとカラダのこと、
ちゃんと知りたい
中医学はあなたの体調・体質に合わせて、つらい症状に対処し、元気とキレイを提案します。私たちは日々様々なストレスにさらされ、気づかないうちにこころもカラダも疲れています。病気ではないけれどなんとなく調子が悪い、改善されない不調がある。そんな方に、中医学の考え方をご紹介します。