漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
心臓がドキドキして、拍動を強く感じる動悸。頻繁になって不安・不快になったことはありませんか?
症状が長期化すると治りにくく、不安感から不眠や鬱につながることもあるんです。早めの改善が求められます。
そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、動悸の対策を分かりやすく説明します。
動悸は、心臓の拍動をドキドキと速く、または強く感じたり、脈拍が乱れたりする「心(しん)」(心臓)の症状。
激しい運動や強い緊張感などによって誰でも感じるものですが、ちょっとした運動や心配ごとなど、ささいなことで頻繁に動悸を感じる場合は、血液を送り出す「心」の働きが低下していると考えられます。
このような動悸の症状は、「瘀血(おけつ)」(血行不良)や過度なストレス、不安感、身体の疲労、食事の不摂生など、日頃の生活習慣や心身の不調が大きな原因に。
心は生命を維持するために絶えず動いている臓器で、その拍動は、早くても遅くても乱れても、さまざまな不調につながる可能性があります。
動悸の症状を頻繁に感じたら、まず”心身の不調を知らせるサイン”と捉え、身体全体を整えながら「心」の不調を改善していきましょう。
また、心身の疲労は病気の原因にもなり、症状が長引くと不眠や鬱などにつながることもあります。動悸の症状が気になる人は、初期の段階で早めに対処するよう心がけましょう。
※動悸の症状は軽いものから重いものまでさまざまですが、もし痛みを伴うようであれば、狭心症や心筋梗塞といった病気が潜んでいる場合もあります。早めに病院で受診するようにしてください。
中医学では、「心悸(しんき)」「心動」「心跳(しんちょう)」「心慌(しんこう)」などの症状が動悸にあたり、心臓だけではなく、さまざまな身体の不調が関わりあって動悸を起こしていると考えます。
こうした不調を根本から取り除き、日頃の生活から動悸の予防・改善を心がけましょう。
動悸の慢性化、胸痛、顔色が黒ずんでいる、舌の色が暗い、舌に暗い点やしみがある、高血圧
動悸が慢性化していると、全身に血液を送る「心」の働きも低下した状態が続いてしまいます。
その結果、血流が悪くなって「瘀血(おけつ)」(血行不良)が発生し、動悸の症状も改善できない、という悪循環に陥ってしまうのです。
狭心症や動脈硬化症などを患っている人も瘀血になりやすいので要注意。まずは血流を良くしながら瘀血を改善し、「心」の働きを健やかに整えることが大切です。
血流を改善する食材を:
玉ねぎ、サフラン、納豆、紅花
肥満、高脂肪血症の傾向、飲食の不節制、痰が多い、舌の苔が厚い、舌の苔がネバネバする
油っこいものや甘いものを摂り過ぎたり、暴飲暴食を続けていると、体内にネバネバとした汚れ「痰湿(たんしつ)」が溜まって血がドロドロに。すると、血流の悪化から心臓にも負担を与え、動悸を起こす原因となってしまいます。
このような状態を放っておくと、動悸がさらに悪化してしまうことに。まずは胃腸の働きを高めて体内の汚れを取り除き、健康なサラサラ血を目指しましょう。
胃腸の働きを高め、体内の汚れを取り除く食材を:
ひまわりの種、きゅうり、サンザシ、スイカ、大根
冷えると動悸が起きる、手足が冷える、顔色が白い、舌の苔が白い
「心」は全身に血を巡らせて身体を温めていますが、冬の寒さや夏の冷房、冷たい飲食物の摂り過ぎなどで身体が冷えると、血流が悪くなり心の機能も低下してしまいます。
その結果、血を巡らせる働きが弱くなって動悸や冷えに悩まされるように。
心が元気に働くためには、冷えから身体を守ることが大切です。暖かい服装をする、冷たいものの飲食を控えるなど、普段から身体を温めるよう心がけましょう。
身体を温める温性の食材を積極的に:
らっきょう、シナモン、生姜、紅茶
不安感やイライラを伴う動悸、情緒が不安定になると胸苦しさや胸痛を感じる、のどの閉塞感、憂うつ感、怒りっぽい
「肝(かん)」はストレスをコントロールし、全身に「気」を巡らせる働きを担っています。そのため、過剰なストレスを受けて肝の機能が低下すると、気の流れも滞りがちに。
その結果、気と一緒に体内を巡っている血の流れも悪くなり、動悸の原因になります。
このタイプの動悸は、更年期の女性や男性に多く見られます。過剰なストレスや不安感は症状を悪化させてしまうので、ゆったりとした気持ちで過ごすことも大切。ストレスや不安を抱え込まないよう心がけ、肝の働きを健やかに保ちましょう。
「肝」の機能を高めてストレスを発散し、気血の巡りをスムーズに:
ハマナスの花、ジャスミン茶、ミント、菊花、笹の葉、酢
動悸の慢性化、疲れると動悸を感じやすくなる、めまいがする、疲れやすい、無力感、舌の色が淡い
「血」は「心」を健やかに保つ大切な栄養素。また、「気」は「血」と一緒に全身を巡り、血流をスムーズに保つ役割を担っています。
そのため、病後や更年期、加齢などが原因で体内の気・血が不足すると、血流の悪化や心の機能の低下につながり、動悸が起きやすくなります。
また、心には精神を安定させる働きもあるため、心の働きが弱くなると精神的にも不安定な状態に。こうした不安感から動悸の症状が強まることもあるので注意しましょう。
このタイプでは、虚弱な体質を根本的に改善していくことが大切。栄養をしっかり摂って、足りない気・血を十分に補いましょう。
身体を養い、足りない「気」「血」を補う甘みのある食材を:
黒砂糖、ぶどう、ワイン(少量)、百合根、蓮の実、小麦、鶏ハツ、なつめ
日頃の気配りで心と身体を健やかに保ち、動悸の予防・改善を。
・睡眠は十分とりましょう
・強い刺激は避け、精神の安定を
・暴飲暴食、お酒の飲み過ぎには要注意
・夕方以降、お茶やコーヒーは控えめに
・服装や食生活で、身体を温める工夫を
【動悸のツボ】
神門(しんもん):手首のしわの小指側端、手首をそらすとくぼむところ。不安感やイライラを緩和します。
内関(ないかん):手首から指3本分下がったところ。イライラを鎮め精神を安定させる作用があります。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
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