そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、夏の胃腸トラブル対策を分かりやすく説明します。
冷たいもの、水分の摂り過ぎに注意!
“後天の本”と呼ばれる「脾胃(ひい)」(胃腸)は、飲食物を消化吸収して、生命力の源となる「気」(エネルギー)や「血」を生む大切な臓器。脾胃が健やかに働いて栄養をしっかり摂ることができれば、体内の気血も充実して、体力のある元気な身体を保つことができます。
反対に脾胃の働きが弱くなると、体内の気血は不足しがちに。エネルギーや栄養が身体に十分巡らず、慢性疲労、めまい、貧血、免疫力の低下など、全身のさまざまな不調につながります。
脾胃の不調を招く大きな要因となるのは「食の不摂生」です。この時期、特に気をつけたいのは冷たいものや水分の摂り過ぎなどによる「湿」(余分な水分や汚れ)の停滞。消化吸収を担う「脾(ひ)」は“湿を嫌い、燥を好む”臓器なので、体内に湿が溜まるとその働きが落ちてしまいます。また、暴飲暴食、油っこい食事、激辛料理なども脾胃の負担となるので注意しましょう。
夏は油断しがちな「身体の冷え」も、脾胃の働きを低下させるので気をつけて。過剰な冷房や冷たい飲食などは控え、「陽気」(エネルギー)の消耗を防ぐことが大切です。
また、慢性的な「胃腸虚弱」の人は、夏はいつも以上に脾胃の不調を感じやすくなります。体力も不足しがちで夏バテを起こしやすいので、脾胃を良い状態に保つよう日頃の養生を心がけてください。
脾胃はとても繊細で、小さなトラブルでも食欲が落ちたり、痛みを感じたりと敏感に反応します。不調を慢性化させないためにも脾胃のSOSを見逃さず、早めの対処を心がけましょう。
check!タイプ別・胃腸トラブル対策
元気な脾胃でしっかり栄養を摂ることは健康の基本です。夏の暑さを乗り切るためにも、脾胃の元気を保つよう積極的に養生しましょう。
1
“湿”が溜まる
「食の不摂生」タイプ
- 気になる症状
- 吐き気、胃の膨満感、胃のムカつき、げっぷ、下痢、軟便、舌の苔が多い
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- 改善ポイント
【水分は適量を。冷たい飲食は控えめに】
「脾」は“湿を嫌い、燥を好む”という性質があり、「胃」は“冷え”を苦手とする臓器です。ところが、夏は「湿邪(しつじゃ)」(自然界の邪気)が体に侵入しやすく、冷たいものや水分も過剰に摂ってしまいがち。すると、脾胃に負担がかかって機能が落ち、水分をスムーズに処理できなくなってしまいます。その結果、体内に「湿」(余分な水分や汚れ)が溜まってしまうのです。
湿が溜まると脾胃の働きはさらに弱くなり、胃のムカつきや膨満感、下痢などの不調が現れるように。夏の水分補給は大切ですが、飲み過ぎには十分注意しましょう。また、暑くてもなるべく温かい食事、飲み物を心がけることも大切です。
【脾胃に負担をかけない食生活を】
暑さで食欲が落ちる夏は、激辛料理などを選びがち。また、夏休みや暑気払いなどで外食の機会も増え、油っこい食事が多くなったり、つい食べ過ぎたり飲み過ぎたりしてしまうことも。こうした食生活を続けていると、脾胃が疲れて食事をしっかり摂れず、夏バテを起こしやすくなってしまいます。また、秋冬になっても疲れを引きずり、かぜを引きやすくなることも。
特に不調を感じていない人も、胃腸トラブルを起こしやすい夏は油断禁物です。脾胃に負担をかけないよう、食生活にしっかり気を配りましょう。
- 摂り入れたい食材
- 脾胃の働きを整え、湿を取り除く食材を:
サンザシ、麦芽、カルダモン、梅干し、しそ、陳皮茶(ちんぴちゃ)、はと麦、お焦げ など
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2
冷房に注意!
「冷え」タイプ
- 気になる症状
- 胃痛、腹痛、下痢、お腹の冷え、身体の冷え、顔色が白い
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- 改善ポイント
飲食物を消化吸収する「脾胃」の働きは、体内の「陽気」によって守られています。ところが、夏は過剰な冷房や冷たいものの摂り過ぎなどで、陽気を消耗しがちに。その結果、身体が冷え、脾胃の働きも弱くなって、腹痛や下痢などの不調が起こるのです。
中医学ではこの時期は陽気を養うことを大切にします。こまめなオン・オフで冷房を上手に使う、羽織ものなどで調節する、冷たい飲食は控えるなど、身体を冷やさないよう心がけ、体内の陽気を守りましょう。
- 摂り入れたい食材
- 冷えた身体を温めるものを:
しょうが、ねぎ、にんにく、にら、山椒の実、八角、シナモン、ナツメグ、みょうが、フェンネル など
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3
慢性的な
「胃腸虚弱」タイプ
- 気になる症状
- 食欲不振、慢性的な胃腸不調、全身の疲労感、息切れ、めまい、かぜをひきやすい
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- 改善ポイント
不摂生な食生活を続けている人、慢性疾患のある人などは、慢性的に脾胃の働きが弱くなっていることも少なくありません。このタイプは普段から栄養を十分摂ることができないため、体内の「気」「血」が不足しがちに。体力や免疫力も落ちやすく、全身の疲労感、息切れ、めまい、貧血といった不調が起こりやすくなります。
また、脾胃の働きを支える「陽気」も不足してしまうため、食欲不振や消化不良などに悩まされることも。脾胃が弱いまま放っておくと、夏バテしやすく、秋になっても回復しにくいので気をつけて。夏を元気に乗り切るためにも、日頃の養生を大切にして脾胃の働きを整えましょう。
- 摂り入れたい食材
- 脾胃の働きを良くして、体力を養う食材を:
白米、もち米、いんげん豆、山芋、じゃがいも、キャベツ、大豆製品、りんご、豚肉 など
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point!暮らしの養生
・夏でも温かい食事、飲みものを基本に。冷たい飲食は脾胃の大敵です。
・刺身やサラダには、みょうがやしそをたっぷり。薬味で冷えを防ぎます。
・毎日の入浴を心がけ、身体をしっかり温めて冷え予防を。
・夏は食材が傷みやすい時期。少量ずつ用意して新鮮なうちに食べましょう。
・身体をこまめに動かして陽気を巡らせて。脾胃の働きも良くなります。
・スムーズな排尿・排便を保ち、老廃物の排泄を。
【3食のポイント】
・朝食:温かく消化の良いもの
・昼食:栄養のあるものをしっかり
・夕食:軽めの食事で脾胃の負担を軽く
食事は1日3食が基本ですが、胃腸の不調を感じたらムリはしないこと。まず脾胃をゆっくり休ませて、調子を整えることが大切です。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
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PROFILE
中医学講師/監修 菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。
1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
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