漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
ジメジメとした梅雨の季節は、なんとなく身体の重さやだるさを感じたり、食欲がなくなったりと、天気と同じように体調もすっきりしないことが多いもの。中医学では、このような湿気が多い時期の体調不良を「湿邪(しつじゃ)」と結びつけて考えます。湿邪は外から入ってくる「外湿(がいしつ)」と、体内から生じる「内湿(ないしつ)」に分かれ、いずれも身体にさまざまな不調を引き起こす原因となっています。身体のだるさや鈍い痛み、水分の停滞によるむくみ、胃の不調といった症状が現れますが、その症状は治りにくく、ズルズルと長引くこともあるため注意が必要です。
湿邪による体調不良には「外湿」と「内湿」の2つの原因があります。外湿と内湿では症状が異なりますので、どちらに当てはまるか見た上で、毎日の食事を少し工夫して湿邪を退治しましょう。
頭や体が重い、むくみやすい、皮膚のトラブル、尿のトラブル
【毎日湿邪を発散して、ためこまない】
湿気の多いジメジメした季節は湿邪が身体に入りやすくなり、さまざまな不調が現れます。では、身体が湿邪に侵されると、どのような症状が現れるのでしょうか。まず、湿邪には重いという特徴があり、頭や身体が重い、頭がすっきりせず身体の動きが鈍くなる、といった症状が現れます。普段から血行が悪く、水分代謝(水分の排出がスムーズにされないこと)が良くない人は注意してください。水分代謝がさらに悪化して、身体のむくみが普段より強く出ることがあります。
湿邪はもう一つ、濁(だく)という特徴があります。清い、清潔の反対ですね。皮膚のトラブル、分泌物が多くジュクジュクするなど、皮膚が不安定な状態になります。皮膚の慢性疾患のある人は、この時期、特に注意してケアしましょう。そして、尿の濁り、残尿感、排尿痛など、尿のトラブルも多く見られるので、なるべく膀胱に負担をかけないよう心がけてください。
また、湿は下に集まるので、女性はおりものが多くなることもあります。できるだけ清潔にして、コットンなどの通気性の良い下着を選びましょう。湿邪が身体に停滞していると、舌に苔がたまりやすく、口の中がネバネバします。とくに身体の不調を感じていなくても、そのような状態に気づいたら要注意。
湿邪は、たまってしまう前に毎日すこしずつ取り除くことで、症状を抑えることができます。利尿作用のある飲み物や、香りの良い食材を選んで湿邪を発散し、身体にためないよう心がけましょう。
利尿作用のあるもの、香りの良いもので、余分な水分を取り除き湿邪を発散させましょう。
しそ、もやし、春雨、冬瓜、お茶、コーヒー、ココア
胃もたれ、下痢・軟便、食欲不振、身体の倦怠感
【脾胃を丈夫にして、湿邪を撃退】
内湿は、おもに「脾胃(ひい)」(胃腸)の機能が低下することで身体の内側から生じるものですが、外湿の存在とも深い関わりがあります。脾胃は、食べ物を消化、吸収して栄養や水分を全身に運ぶと同時に、体内の水分代謝を管理する大切な役割を担っています。この機能が低下すると、外から入ってきた湿を取り除くことができず、脾胃の機能がさらに弱くなって内湿が生じるのです。
身体に内湿がたまると、脾胃にかかわるさまざまな症状が現れます。まず、脾胃は四肢や筋肉と関わりが深いため、脾胃が弱くなることで身体に倦怠感、疲労感が強く現れます。
また、脾胃の機能が低下するため、食欲がない、少ししか食べられないといった、食欲不振に悩まされることも。いつもと同じものを食べていても、梅雨時は消化しにくいことがあります。
水分代謝が悪く、栄養分が消化、吸収されずにそのまま排出されてしまうため、下痢や軟便になりやすいのも特徴です。軟便などの症状が現れれば、それは脾胃が弱っているサイン。症状がひどくなる前に、早めの対策を心がけましょう。そのほか、湿邪の影響で脾胃が弱くなると、顔色は黄色くつやがなくなり、舌は腫れぼったくなるなどの症状が見られることもあります。
内湿の影響で弱った脾胃を回復するには、脾胃の機能を健やかに保つよう補いながら、湿邪を取り除いていきます。「食の養生」に記載した、3種類の食材を、バランスよく食事に摂り入れてみてください。
この時期は食材をなるべく加熱するようにしましょう。例えば豆腐なら冷奴ではなく、湯豆腐などにして食べるようにしてください。
・脾胃を元気にする食材:いんげん豆、山芋、大豆製品、蓮の実、栗
・脾胃を温める食材:山椒の実、フェンネル、生姜、ニンニク、キムチ
・湿を取り除く食材:はと麦茶、とうもろこし、小豆、鯵(あじ)
雨の日が続くと、外出もおっくうに。そんな季節だからこそ、毎日を楽しく過ごす工夫をしたいものです。例えば、悠々自適な暮らしを表現する「晴耕雨読(せいこううどく)」という言葉があるように、雨の日に家で読書をするのはなかなか贅沢なこと。読書に限らず、映画を観たり、梅酒作りに挑戦したり、思い切って部屋の模様替えをしてみるものいいかもしれません。
梅雨はうつ状態になりやすい時期でもあります。電車やバスも遅れがちなので、出かけるときは時間にゆとりを持つようにするなど、なるべくストレスを溜めない工夫も必要です。食事や生活のちょっとした心がけで、心身ともに元気な梅雨を過ごしましょう。
【おすすめのツボ】
入浴後などのリラックスした時間に、呼吸を整えつつ、指の腹などでやさしく刺激しましょう。
・足三里(あしさんり):胃腸を強くするツボ。膝頭の外側の下にできるくぼみから指4本下。
・内関(ないかん):精神の安定、ストレス解消に。手首から肘に向かって指3本分置いたところ。指をツボに当て押す。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
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