漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
普段の生活で耳に違和感を覚えたことはありますか?耳はさまざまな音声を聴き取る大切な聴覚器官で、体の変化をいち早く感じるため、耳鳴りなどの小さな症状にも敏感に反応します。
耳の症状は外からは見えにくいため一人で悩んでしまうこともよくありがち…。
そこでこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、耳を健やかに保つ方法を分かりやすく説明します。
中耳炎や外耳炎などの疾患があるわけではないのに、耳鳴りや耳の閉塞感といった不快な症状を感じることがあります。このような症状の原因は、老化や疲労、ストレス、胃腸の疲れなどさまざま。
中医学では「耳は清らかな陽気が体内を上昇するときに通過する穴」とされていて、体内に陽気が満ちていれば、耳の働きも安定しやすくなると考えます。そのため、疲労や老化によって陽気が不足したり、ストレスで陽気の流れが悪くなったりすると、耳の働きにも影響してさまざまなトラブルにつながるのです。
一般に最も多く見られる症状は「耳鳴り」。キーンという高い音や、ボーっという低い音など、聴こえる音や大きさはさまざまですが、耳の奥で鳴る音はとても不快なもの。また、耳のトラブルでは聴力の減退「耳聾(じろう)」に悩む人も多く見られ、耳聾にも耳鳴りを伴うことが少なくありません。
耳鳴りは耳聾になる前の段階で現れる症状でもあり、長く続くと聴力にも影響するため注意が必要です。耳鳴りの段階で積極的に対策し、耳聾を予防するよう心がけてください。
このように、耳のトラブルは単に耳の問題だけでなく、心身の不調を知らせる大切なサインでもあります。改善するためには、まず自分の症状からその原因を考えることが大切。根本となっている心身の不調を取り除き、耳の働きを健やかに保つよう心がけましょう。
耳鳴りや聴力の減退といった耳のトラブルは、さまざまな身体の不調が原因となって現れるもの。自分に当てはまる症状からその不調を見極め、体質からしっかり整えていきましょう。
強い高音の耳鳴り、偏頭痛、不安感、怒りっぽい、突発性難聴
【急性の初期症状】
おもに過度のストレスが原因で起こる症状。ストレスによって穴につまりが生じ、陽気の通りが悪くなることで耳のトラブルが現れます。
初期に見られる急性の症状で、強い高音の耳鳴りが断続的に起こる、症状に波がある、偏頭痛や不安感を伴うといった症状が特徴。また、突発性難聴、高血圧や自律神経失調症に伴う耳鳴りや聴力の減退などもこのタイプにあたります。
健康に保つポイントは、ストレスを調節、発散する役割を担う「肝(かん)」(肝臓)を鎮めること。ストレスを発散させてつまりを取り除き、耳の働きを安定させましょう
お茶や涼性の食材で肝の熱を鎮め、ストレスを発散させましょう:
菊花茶、柿葉茶、桑の葉茶、緑茶、セロリ、トマト
耳鳴り、聴力の減退、耳の閉塞感、回転性のめまい、胃のむかつき、口の中がネバネバ感、肥満、むくみやすい
【水分代謝と血流の改善を】
このタイプは、水分代謝が悪くなり、体内に余分な水分や汚れ「痰湿(たんしつ)」が溜まることが原因。粘りのある痰湿が停滞することで、耳もつまってしまうのです。耳垢とは異なり、耳掃除をして取れるものではありません。
更年期に多く、高脂血症や肥満、むくみがみられやすく、メニエール症候群に伴うものや、耳鳴りのほか聴力の減退、耳の閉塞感、めまい、胃のむかつきなどが特徴です。
健康に保つポイントは、溜まった痰湿を取り除き、水分代謝を良くすること。また、症状が長期に渡ると粘りのある痰湿で血流も悪くなってしまうため、同時に血流の改善を心がけると効果的です。
利水効果のある食材を中心に選び、余分な水分を取り除きましょう。身体の血と水の流れを良くするため、ねぎをたっぷり使った食事もおすすめです:
はすの葉、けつめいし、はと麦、ねぎ
疲労時に耳鳴り・聴力の減退が強くなる、めまい(立ちくらみ)、倦怠感、食欲不振、軟便、顔につやがない
【胃腸の疲れに要注意】
慢性的な疲労や、病後などで体力が落ちているときは、「脾胃(ひい)」(消化器系)の働きも弱くなります。栄養分や陽気を体中に運ぶ脾胃の機能が低下すると、耳の栄養状態も悪くなり、さまざまなトラブルが現れるのです。
このタイプは、疲労時に耳鳴りや聴力の減退が強くなり、立ちくらみ、倦怠感、食欲不振、軟便などの症状を伴うことが特徴。まずは脾胃の機能を健やかにして、しっかり栄養を摂ることを心がけましょう。
脾胃の働きを良くする食材、体力をつける食材を多く摂り、しっかり栄養を補いましょう:
大豆製品(湯葉、豆腐など)、いんげん豆、そら豆、米
夜間の耳鳴り、聴力の減退、めまい、腰痛、物忘れ、症状の慢性化(低音の耳鳴りが続くなど)
【誰にでも起こること。あまり気にせずリラックス】
腎の陽気は体内すべての陽気の根源。源となっているのが、生命のエネルギー源である「腎精(じんせい)」です。年齢を重ねると腎精は自然に衰退していくため、腎の陽気も不足しがちに。すると、「耳の働きは体内に陽気が満ちている状態で安定する」ため、耳にもさまざまなトラブルが現れるのです。
このタイプの症状は主に老化が原因となりますが、程度の差はあれ、これは誰にでも起きること。あまり気にしすぎず、リラックスして過ごすことが大切です。腎を養うことはさまざまな老化現象への対応にもなるので、いつまでもイキイキと過ごせるよう養生を大切にしましょう。
腎精を補い、耳に栄養を与える食材を取り入れましょう:
くるみ、松の実、クコの実、桑の実、ごま、黒豆、山芋、豚豆(豚の腎臓)
※豚豆は生姜、ねぎ、紹興酒で炒めるとおいしい中華の炒め物に。
不快な耳のトラブルを改善するポイントは、まず心も身体もリラックスして過ごすこと。睡眠をしっかり取る、ゆっくりお風呂に入る、散歩を楽しむといった、毎日続けられる習慣を身に付けましょう。入浴や散歩は血行を促進するため、耳の症状への対応はもちろん、身体の健康維持にもつながります。
手軽に取り入れられるのは「耳マッサージ」。親指と人差し指で耳をはさみ、全体をマッサージします。耳には腎をはじめとするさまざまなツボがあるほか、マッサージによるリラックス効果も期待できるので、気軽に試してみてください。
また、イヤホンなどをできるだけ使わず、耳の負担を少なくすること、心地いい音を聞いて耳をリラックスさせることも大切。川のせせらぎ。そよ風が緑を揺らす音。戸外に出かけてそんな自然の音に親しめば、心も耳ものんびり心地よく過ごせそうですね。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
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