身の回りの家族・親戚などで認知症にならないか不安に思ったことはありませんか?もしくは将来自分が認知症になったらどうしよう、と思っている方もいるかもしれません。
できることは何もないのでしょうか?認知症にならないためにできることはあるんです。
この記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、脳の老化を予防する方法を分かりやすく説明します。元気な今から積極的にケアをして、いつまでもイキイキと健やかな毎日を過ごしましょう!
認知症の原因を大きく分けると4つ
中医学で考える「認知症」の原因は、大きく分けて4つ。まず「瘀血(おけつ)」(血行不良)の状態になると、脳に栄養を与える「血」が十分に行き渡らず、認知症の症状につながります。また、五臓の「腎(じん)」(腎臓)は脳の働きと深く関係しているため、腎が弱くなると脳の機能を低下させる要因に。その他、「脾胃(ひい)」(胃腸)が弱く体内の気(エネルギー)・血が不足する「脾気虚(ひききょ)」、ストレスなどで気の流れが滞る「肝鬱(かんうつ)」の状態も、認知症の原因となります。
こうした体内の不調を改善することが、認知症予防の基本。次に、これらの改善方法をご説明します。
check!認知症の予防法をタイプ別にチェック!
中医学の考えでは、認知症は上で挙げた4つのタイプに分けられます。それぞれ症状には特徴があり、効果的な予防法も異なります。自分があてはまるタイプを考えて、日頃の生活から認知症の予防を心がけましょう。
1
血液ドロドロ
「瘀血(おけつ)」タイプ
- 気になる症状
- 物忘れ、頭痛、顔色が暗い、手足のしびれ、舌の色が暗い
西洋医学の「脳血管性認知症」にあたるタイプ
もっと見る
- 改善ポイント
【高血圧や動脈硬化などが気になる人は要注意】
年齢を重ねると血液も粘りが出るため、血の流れが滞り瘀血を生じやすくなります。瘀血は脳への血流をさまたげ、それが健忘や痴呆といった症状を引き起こす原因となります。
このタイプの主な症状は、物忘れや頭痛、疼痛、手足のしびれ、顔色が暗いなど。高血圧、動脈硬化、狭心症、高脂血症、脳血管障害といった症状が見られる人のほか、手術歴や大きな外傷歴がある人は、このタイプの認知症に注意が必要です。
血液をサラサラにして流れを良くする「活血(かっけつ)」「化瘀(かお)」、脳を健やかにする「健脳」などを中心に、予防・対応していきましょう。
- 摂り入れたい食材
- 黒いもの、辛味のあるものなどを意識して摂るようにしましょう:
昆布、わかめ、黒酢、山査子(さんざし)、小豆、黒きくらげ、ラッキョウ、黒豆、酒(少量)、にんにく、たまねぎ、セロリ
閉じる
2
老化が進む
「腎虚(じんきょ)」タイプ
- 気になる症状
- 健忘、腰痛、めまい、聴力の減退、脱毛、歯が弱い、夜間の頻尿
西洋医学の「アルツハイマー型認知症」にあたるタイプ
もっと見る
- 改善ポイント
【さまざまな老化現象は腎虚が原因に】
「老化の進み方の差は、腎虚の進み方の差」と中医学では考えられています。腎は、「精」と呼ばれる、生命を維持するエネルギー源の貯蔵庫となっています。
そのため、腎の機能が低下すると、骨や歯がもろくなる、排尿がうまくいかない、といったさまざまな老化現象が現れます。認知症もその一つ。
このように、認知症に限らず老化現象を予防するためには、腎を養う「補腎(ほじん)」、精を増やす「益精(えきせい)」が大切。老化をなるべく穏やかにして元気な身体で老後を過ごせるよう、日頃から少し気を配ってみてくださいね。
- 摂り入れたい食材
- 味のしっかりしたもの、動物性のものなど、補腎の効果がある食べ物を:
きのこ類、クコの実、白きくらげ、にら、くるみ、すっぽん、黒ゴマ、松の実、うなぎ、霊芝茶
閉じる
3
エネルギー不足の
「脾気虚(ひききょ)」タイプ
- 気になる症状
- 食欲不振、息切れ、疲労、不眠、健忘、風邪をひきやすい
もっと見る
- 改善ポイント
【食欲や体力が落ちたなと感じたら気をつけて】
「脾胃(ひい)」(消化器系)は「気血」を生む源。脾気が身体に栄養を運び、その栄養から血が生まれます。そのため、脾胃が弱くなると全身の気血が不足し、五臓六腑(内臓)はもちろん、脳の機能も低下してしまうのです。
胃が弱い人、慢性疾患や老化などで体力が落ちている人は、このタイプの認知症に注意が必要です。
- 摂り入れたい食材
- 甘みのあるもの、補う効果のあるものを中心に食材選びを:
栗、米、麦、ライチ、ぶどう、いんげん豆、にんじん、りんご、豆腐、湯葉、大豆製品
閉じる
4
ストレスが多い
「肝鬱(かんうつ)」タイプ
- 気になる症状
- 情緒の不安定、憂鬱、イライラ、胸脇脹満、不眠、悪夢、集中力の低下
もっと見る
- 改善ポイント
【イライラやストレスは認知症の悪化に】
肝は新陳代謝をコントロールする大切な臓器。この機能がうまく働いていると、全身にきれいな酸素がいきわたり脳の働きも活発になります。
肝鬱タイプの認知症は、ストレスで肝の機能が減退し、気の流れが滞ることが原因で起こります。また、気の流れの滞った「気滞(きたい)」という状態が長く続くと「瘀血(おけつ)」につながることもあります。老化への不安がストレスになるケースも多く見られますが、老化はだれにでも訪れるもの。あまり神経質にならず、上手に付き合っていきましょう。
- 摂り入れたい食材
- 香りの良いものなどでストレスを発散し、気の流れをスムーズに:
しそ、玫瑰花茶(まいかいかちゃ)、菊花茶、びわ、はと麦、どくだみ、冬瓜、トマト、きゅうり、みかん、緑豆
閉じる
point! 老後は「本物の人生」。毎日を楽しく健やかに
認知症をはじめとするさまざまな老化現象は、年齢を重ねることでどんな人にも現れるもの。もちろん老化を止めることはできませんが、健康を保つ工夫をしたり、余裕ができた時間を楽しく過ごしたりと、自分次第で老いと上手に付き合うことはできるものです。
認知症を予防するためにも、毎日をイキイキと前向きに暮らすことはとても大切なこと。例えば、趣味や会話の時間を増やす、1日1回は笑う、といった良い刺激を与えることは認知症の予防につながります。花や緑を楽しんだり、温泉でゆっくりしたり、そんな自然との触れ合いもいいですね。
また、左右の手を交互に使って歯みがきをしたり、両手で肩をもんだりすると、脳を鍛えることができます。食事は薄味、加熱を心がけて、ゆっくりと気持ちよく食べましょう。
老化への焦燥感、不安感などでストレスを溜めることは禁物。江戸時代には、仕事をする必要がなく、自分の好きなことを存分に楽しめる老後こそ「本物の人生」と考えられていたそうです。 より長生きになったわたしたちも、そんな風に楽しく元気な老後を過ごしたいものですね。
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
あなたの体質タイプをチェック
関連記事
PROFILE
中医学講師/監修 菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。
1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状別一覧へ戻る