漢方の知恵袋
監修:菅沼 栄先生(中医学講師)
痔はとても身近な病気の一つ。日本人の3人に1人は痔に悩んだ経験があるとも言われています。みなさんはいかがでしょうか?
相談しにくい、恥ずかしい、といった理由から対処が遅れ、症状が悪化してしまうケースも少なくありませんが、気づいたら早めのケアが必要です。
そのためにこの記事では、中国の伝統医学である中医学をもとに、痔のケアの方法を分かりやすく説明します。
痔は性別や年齢を問わず、誰でも患う可能性がある身近な病気です。命に関わるような疾患ではありませんが、痛みや出血のある不快な状態が続くと、日常生活や仕事に支障が出てしまうことも。
症状が悪化する前に、早めの対処で改善することが大切です。
痔のタイプは大きく分けて3種類。肛門の内部や外側にいぼ状の腫れができる「いぼ痔」(痔核)、肛門の皮膚が切れる「きれ痔」(裂肛)、肛門内部に膿が溜まり、おしりに膿の出る穴ができる「あな痔」(痔ろう)があります。
中医学では、こうした痔の症状は、体内に溜まった「湿(しつ)」(余分な水分や汚れ)や「熱」、肛門部の「瘀血(おけつ)」(血行不良)が主な原因と考えます。
飲み過ぎ、食べ過ぎなどによって体内に湿・熱が溜まると、「脾胃(ひい)」(胃腸)の不調を招いて下痢や便秘になり、これが痔の原因に。
また、慢性的な便秘や下痢、妊娠・出産、座りっぱなし・立ちっぱなしの状態などは、肛門部を圧迫して瘀血を起こす原因となります。
こうした肛門部の瘀血が痔につながる他、身体全体の瘀血は便秘の原因にもなるため、中医学では痔と瘀血には密接な関係があると考えるのです。
いずれにしても、痔の症状には食事や排便、仕事など、普段の生活が大きく関わっています。薬に頼るだけでなく、生活習慣を見直して”痔になりにくい体質”をつくるよう心がけましょう。
10人中9人は痔を患っている「十人九痔」という言葉が生まれるほど、痔は中国でもポピュラーな病気。中医学の知恵を活かし、日頃のセルフケアで“身体の中から”痔を改善しましょう。
急な痔の痛み・痛痒さ、痔の出血(鮮血)、排便異常(下痢や便秘)、肛門の熱感、腫れ、強い口臭、口の渇き、舌の色が紅く苔が黄色い
暴飲暴食、辛いもの、甘いもの、油っこいものの摂り過ぎなどで体内に「湿(しつ)」(余分な水分や汚れ)や「熱」が溜まると、「脾胃(ひい)」(胃腸)の不調を招いて下痢や便秘を起こしやすくなります。こうした排便の不調が肛門の負担となり、痔の症状につながるのです。
このタイプの症状は、急に起こる痛みや出血、肛門の熱感、腫れなどが特徴。
多くの場合は数日で治まりますが、つらい症状を繰り返さないためにも、日頃から体内に湿や熱を溜めない食生活を心がけることが大切です。
涼性の食材、便通を良くする食材:れんこん、アロエ、ごぼう、たけのこ、枝豆、海草類、卯の花、いちじく、バナナ、お茶、はと麦、おおばこ、決明子(けつめいし) など
慢性的な痔の出血(少量の暗い色の出血)、痛み、しこり、顔色の黒ずみ、舌の色が暗い
中医学では、肛門部の「瘀血(おけつ)」(血行不良)が痔の大きな原因になると考えます。
肛門部の負担となって瘀血を起こす要因となるのは、便秘や下痢、排便時のいきみ、長時間座りっぱなし・立ちっぱなしの状態など。また、女性は妊娠や出産で肛門に負担がかかり、痔になってしまうこともあります。
慢性的な痔の出血や痛み、しこりといった症状がある場合は、まず瘀血を改善することが大切。体内の瘀血は便秘にもつながりやすいため、積極的に対処するよう心がけましょう。
血行を良くする食材:紅花、よもぎ、黒きくらげ、玄米、いわし、なす、納豆、モロヘイヤ、干し柿、サフラン など
長期わたって痔を患っている、脱肛、痔の出血(淡い色の血)、排便後の疲労感、めまい、顔色が白い、貧血気味、舌の色が淡い
長期にわたって痔を患っていると、継続的な出血や身体の消耗から、体内の「気」(エネルギー)や「血(けつ)」が不足しがちに。気血不足の状態では、痔の傷も治りにくく、症状の改善も遅れてしまいます。
日頃から貧血や疲労感などを感じている人は、まず体内の気血を十分に養うことが大切。基本的な体力をしっかり保ち、痔の傷や症状を治す身体の力を養いましょう。
気・血を養い、便通を良くする食材:黒豆、大豆製品、くるみ、松の実、ぶどう、じゃがいも、さつまいも、蜂蜜、ヨーグルト など
痔の予防・改善は、食事や排便などの日常生活を見直すことが基本。日頃からの気配りで、“おしりに負担をかけない”生活を心がけましょう。
・食生活は特に大切。バランスの良い食事を心がけて
・辛いものや油っこいもの、アルコールなどは控えめに
・便が硬くならないよう、こまめな水分補給を
・ストレスは便秘や下痢の原因に。リラックスを心がけて
・適度に身体を動かして血行を促進
・便秘や下痢を解消し、規則的な排便の習慣を
・毎日の入浴でおしりを清潔に。血行も良くなります
月刊誌『チャイナビュー』(イスクラ産業発行)より掲載
この記事を監修された先生
中医学講師/菅沼 栄先生
1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。
1979年、来日。
1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。
症状一覧
CHECK!
TYPEA
エネルギーとなる気が不足しています。
疲れやすくカラダがだるい、やる気が出ない、かぜをひきやすいなど、思い当たりませんか?
TYPEB
気の巡りが滞っています。
イライラして怒りっぽい、生理不順、お腹が張ってガスがでるなど、思い当たりませんか?
TYPEC
カラダの栄養となる血が不足。
冷えやめまい、立ちくらみ、抜け毛、爪が割れやすいなどの悩みはありませんか?
TYPED
全身の血の巡りが滞った状態です。
目の下のクマ、シミ、頭痛、がんこな肩こり、つらい生理痛で悩んでいませんか?
TYPEE
カラダの潤いが不足しています。
のぼせ、ほてり、寝汗、肌の乾燥やかゆみ、経血量が少ないなど、気になりませんか?
TYPEF
水分代謝が落ちた状態です。
太りやすい、むくみ、ニキビ、一日中眠気が取れないなどで悩んでいませんか?
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