監修:楊 紅娜(中医学講師)
楊紅娜先生のBeauty & Relax Vol.27
梅の花がほころび始め、冬の終わりはもうすぐそこ。少しずつ明るくなる日差しに気持ちも浮き立ちますが、春はストレスを感じやすく、メンタル不調を起こしやすい季節でもあります。今回ご紹介するのは、「陰陽五行」の考え方を基本としたメンタルケアのポイント。季節に応じた養生でこころを健やかに保ち、迎える春を明るく気持ちよく過ごしましょう。
天人合一。自然との調和が健康のカギ
「天人合一(てんじんごういつ)」。これは中医学の根底にある考え方で、“人も自然の一部”ということ。季節の変化や気候、風土など、私たちは常に自然界から影響を受けていて、その環境に適応することで健やかな心身が保たれると考えます。
中医学のバイブル『黄帝内経』の第一章には、健康の基本が次のように記されています。
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昔の人々は陰陽の法則に従って自然と一体となり、節度をもって食べ、無理をして疲労することなく、心と体のバランスが保たれていたので、百歳を超える天寿を全うすることができた。
外界の邪気を避けるとともに、心を落ち着かせ、貪欲になったり、妄想したりしないように。そうすれば自然と「気」(エネルギー)が満ちて生命力が充実し、健やかな精神が内を守り、病気が入り込む余地はなくなる。これが、健康維持の真髄である。
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数千年前の書物に“昔の人”と記述があることにちょっと驚きますが、どんな時代でも社会生活には疲労やストレスがつきものなのかもしれません。まだそんな生活ではなかった頃、人々は心身ともに無理をすることなく、“お腹が空いたら必要な分だけ食べる”、“疲れたら休む”というように、自然のままに生きていたのでしょう。そのシンプルな生き方こそが、メンタルを健やかに保ち、生命力を充実させる健康の基本、ということなのですね。
では、メンタルにおける“自然との調和”とは、どのようなことなのでしょう?次章から「陰陽説」「五行説」に基づくその方法をご紹介します。
☆ “何事も自然にまかせる”という道教の考え方は、Vol.25「健やかメンタルの秘訣は中医学の教えにあり!」で詳しく紹介しています。興味のある方はチェックしてみて。

春は「陰」が落ち着き、「陽」が盛んになる季節
「陰陽説」は、自然界の全てのものを「陰」と「陽」に分けて捉える考え方。陰は“静・暗”、陽は“動・明”といった要素が当てはまりますが、良い悪いの区別はなく、どちらも必要なもの。“一方がなければもう一方も存在しない”とされ、陰陽それぞれが強くなったり弱くなったり、互いの不足を補い合ってバランスを保っています。
[陽]男・動・昼・明・暖・火・外・春夏・太陽
[陰]女・静・夜・暗・寒・水・内・秋冬・月
季節に当てはめると、春夏は「陽」、秋冬は「陰」。2月のこの時期は陰が落ち着き、陽がだんだんと活発になります。そして、春分(3月20日ごろ)あたりを境に陰陽が逆転し、自然界では陽が盛んに。メンタルケアも、外に出て太陽の光を浴びる、積極的に活動する、体内の陽気を養うなど、「陽」を意識して元気に過ごすことがポイントです。
『黄帝内経』では、陰陽の変化に適応する大切さを次のように説いています。
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四季の陰陽の変化は、万物の根本である。聖人(健やかな心身を保つ人)が春夏に陽気を養い、秋冬に陰気を養うのはその根本に従うためであり、それは、万物とともに自然界と調和することである。それに逆らえば、体の根本を損なうことになる。そして、四季陰陽の変化は万物の終始であり死生の根本である。この流れに逆らうと災いが起こり、従うと病気が起こらない。これを養生の道を得るという。
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「五行」の春ケアは、“怒らずのびのび、肝を元気に”
「五行説」も、陰陽説とともに中医学の基礎を支える考え方。自然界の全てのものは、「木・火・土・金・水」の五つの要素から成り立っていると考えます。
季節を五行に当てはめると、春は「木」。また、五臓では「肝」、五志では「怒」にあたります。肝は情緒やストレスをコントロールする臓腑で、メンタルの状態と密接な関係に。そのため、春のメンタルケアは肝の働きを健やかに保つことがポイントになります。
肝は、春の木々のようにのびのびとした状態を好む臓腑。過剰なストレスを受けると働きが落ちてしまうので、イライラや怒りを感じることのないよう、ゆったり過ごすことが大切です。この時期は環境の変化や寒暖差などがストレスとなり、肝がダメージを受けてしまうことも多いので、意識して心身をリラックスさせるよう心がけましょう。
『黄帝内経』には、春の養生について次のように記されています。青線部分は“心持ち”のアドバイス。惜しまず与えて、褒めて、おおらかな心で過ごすということですね。
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春の3か月を「発陳(はっちん)」という。天地の全ての生命が育まれ、栄える。早く寝て早く起き、庭に出てゆっくりと歩き、髪を解いてほぐし、体をのびのびとさせ、心はいきいきと生気を充実させると良い。生まれた命を大切にし、与えることを惜しまず、罰するのではなく誉める。これが春の養生の道である。これに逆らえば「肝」が傷つき、陽気が沈んだままになって夏に冷えやすくなる。
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次回「実践編」では、この陰陽五行の考え方を基本とした具体的な養生法をご紹介します。メンタルの不調が気になる人は、ぜひチェックしてみてください。
この記事を監修された先生

中医学講師楊 紅娜
楊紅娜(よう こうな)中医学講師。 登録販売者。鍼灸師。 2006年遼寧中医薬大学修士号取得。 2006年~2016年、大連市にて精神科臨床医として10年間勤務。 「中国摂食障害の防治指南」の編集委員担当。 2016年来日。日本にて登録販売者、鍼灸師取得。