監修:楊 紅娜(中医学講師)
楊紅娜先生のBeauty & Relax Vol.24
五行説をもとにこころの不調を改善する、中医学の「情志療法」。前回の「基礎編」に続き、今回はその具体例をご紹介します。怒ったり、悲しかったり、嬉しかったり、人の感情は時代や国を問わず変わらないもの。そんなことをあらためて感じさせる古典物語のエピソードも興味深いので、楽しみながらメンタルケアのコツを学んでみてください。
「情志療法」ってどんなもの?
中医学のメンタルケア「情志療法」には、主に次の5つの療法があります。これらの療法から、一人一人の症状や原因に合わせて適切な対処をしていきます。
<5つの療法>
● 以情勝情
五情「怒・喜・思・悲・恐」の関係性から感情をコントロールする、五行説に基づく精神療法。
~五行に基づく感情の関係~
「怒・喜・思・悲・恐」の感情は、バランスが取れていることが大切。怒りや憂いなどはネガティブに捉えられがちですが、なにかに立ち向かったり、自分を守ったりする上で大切な役割を果たしています。これらの感情は、どれかが強すぎても弱すぎても精神が不安定な状態に。そのため、五志の相克(相手を抑える)関係「怒勝思・喜勝悲・思勝恐・悲勝怒・恐勝喜」を活かして感情のバランスを整えていきます。
● 勧説開導
話を聞いてこころの悩みを理解し、改善に導くカウンセリング(解釈、励まし、慰め、教育、説得など)
● 移情易性
精神不調やその要因に集中している注意や感情を、ほかに転移させる
● 暗示解惑
良い状態をイメージさせ、改善に導く
● 順情従欲
欲望を満たし、充足感を得る
★詳しくは「知って納得!中医学のメンタルケア~基礎編~」をチェック
以下に、五行に基づく「以情勝情」を中心とした症例をいくつかご紹介します。自分のメンタルと上手に付き合っていくためにも、参考にしてみてください。
以情勝情 ~5つの症例~
【症例1】 怒勝思 〜怒りは、物思い(憂い)に勝つ〜
あまり思い悩むと「脾胃」(胃腸)の働きが落ち、食欲不振やお腹の張りなどが起こりやすい状態に。そんなときは、 “物思いや憂い”を抑える“怒り”の感情を活かしてみて。むやみに腹を立てるのではなく、“必要なことにきちんと怒る”ことを意識すると、エネルギーが活発になり憂う気持ちが自然と薄れていきます。
【症例2】 喜勝悲 〜喜びは、悲しみに勝つ〜
過度に悲しむと「肺」の気を消耗し、疲労感、息切れ、声が出にくいといった不調が現れやすくなります。“悲しみ”から抜け出せないときは、“喜び”を見つけることで感情を整えて。ちょっと無理をしてでも笑ったり楽しんだりすることで、悲しみが和らいでいきます。
【症例3】 思勝恐 〜物思いは、恐れに勝つ〜
おどおど、びくびくした状態が続くと、「腎」がダメージを受け、物忘れ、倦怠感、抜け毛、乾燥といった症状が目立つようになります。そんなときは、“恐れ”を抑える“物思い”を味方につけて。真剣に打ち込めるなにかを見つけて没頭することで、恐れる気持ちを落ち着かせましょう。
【症例4】 悲勝怒 〜悲しみは、怒りに勝つ〜
過度な怒りは「肝」の働きに影響し、「気」(エネルギー)の巡りが停滞して、頭痛、イライラ、お腹の張りといった不調が起こりやすくなります。“怒り”が収まらないときは、“悲しみ”を意識してみて。日常に悲しみを見つけるのはちょっと難しいかもしれませんが、泣ける映画などで感情移入するのも一つの方法かもしれません。
【症例5】 恐勝喜 〜恐れは、喜びに勝つ〜
喜びはポジティブな感情ですが、度を越すと不調の要因に。精神をコントロールする「心」の働きがダメージを受け、過度な興奮、不眠といった精神不調を招きます。“喜び”で興奮気味かなと感じるときは、“恐れ”をイメージしてみて。ものごとは表裏一体。良い面だけを見て舞い上がらず、マイナス面にも目を向けるなどして正しく恐れを感じ、気持ちを落ち着かせましょう。
移情易性の症例
仕事の失敗や人間関係のもつれなどでメンタルに不調があると、そのことばかりが頭を占めてしまいがちです。そんなときは、意識をほかに移すことを心がけて。失恋しても、ほかに好きな人ができるといつのまにか忘れていたりしますよね。ちょっとがんばって視野を広くすることで、自然と気持ちが落ち着いていきます。
暗示解惑の症例
ものごとをネガティブに考えがちなときは、良いイメージを持つよう意識して。うまくいくこと、明るい未来を想像することで、気持ちがポジティブになります。すると、感情に伴って行動も変わることが多く、良い結果が得られやすくなります。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 紅娜
楊紅娜(よう こうな)中医学講師。 登録販売者。鍼灸師。 2006年遼寧中医薬大学修士号取得。 2006年~2016年、大連市にて精神科臨床医として10年間勤務。 「中国摂食障害の防治指南」の編集委員担当。 2016年来日。日本にて登録販売者、鍼灸師取得。