監修:楊 敏 先生(中医学講師)
よくわかる中医学vol.29
また、瘀血はさまざまな生活習慣病の元とも言われ、心筋梗塞・狭心症・脳卒中などの主な原因の一つでもあります。早期発見、早期改善が何よりも重要です。
「瘀血」タイプに見られる主な症状
(1)月経痛がひどい、経血が黒っぽくレバーのような血塊が混じる
中医学には「不通則痛(ふつうそくつう)」という言葉があり、流れが滞れば痛むと昔から言われてきました。月経痛はないのが当たり前。ひどい月経痛は瘀血の典型的な症状の一つです。
(2)慢性的な肩こり・頭痛
この症状も「不通則痛」であらわされる、典型的な痛みの症状の一つです。しかし、慢性的な肩こり・頭痛は、瘀血だけでなくストレスによる気滞とも関係します。体質は混合している場合もありますが、目安として以下のように分けて考えられます。
・瘀血による症状:肩首の筋肉が石のように硬く、頭に刺したような痛みが走る。他にも瘀血の症状が見られる
・気滞による症状:肩がパンパンに張って、頭が張るように痛む。他にも気滞の症状が見られる
(3)顔・唇の色が暗い、シミ・そばかすが多い、目の下にクマがある
血行不良により、粘膜や皮膚の色は暗くなります。高齢、心疾患により症状がひどくなると、黒または紫色を帯びた顔・唇の色になることもあります。
(4)下肢の静脈瘤が目立つ、皮膚の毛細血管が浮き出ている
血行不良により、下肢や皮膚の血がスムーズに心臓まで戻っていない状態です。
(5)動悸・不整脈がある
時々動悸・不整脈を感じる場合は「心(しん)」の血が滞っている「心血瘀阻(しんけつおそ)」と考えられます。心血瘀阻がひどくなると胸が苦しくなる、刺すような痛みがある、左手や背中まで痛むといった症状がみられ、狭心症や心筋梗塞などの心疾患を引き起こすことも。
(6)痔による少量で暗い色の出血がある、便が黒っぽい(血便)
瘀血による痔は腸の静脈がうっ滞している状態です。ストレスにより瘀血がひどくなると十二指腸から出血し、黒いネバネバとした便になることがあります。
(7)体内に腫瘍がある
例えば子宮筋腫、血管腫など。痰湿など他の体質が関係していることもあります。
「瘀血」タイプに見られる舌の特徴
舌は血液循環が盛んなので、血流の悪化がいち早くあらわれる部位です。
・紫暗舌(しあんぜつ):舌が紫または黒っぽい
・シミのような斑点(瘀点・瘀斑)がある
・舌の裏側にある舌下静脈が太い、静脈瘤のようなこぶが見える
「瘀血」を引き起こしてしまう主な原因
(1)冷たい飲食物・肉類・脂っぽいものの摂りすぎ
血液に寒邪が入り込むことによって血行不良の状態になることを「寒凝瘀血(かんぎょうおけつ)」といいます。特に月経中は、冷たいものを摂らないように気をつけましょう。
また、肉類・脂っぽいものの摂りすぎで血液がドロドロになり瘀血の原因となることもあります。
(2)薄着、冷房などによる体の冷え
薄着や露出の多い服装、冷房は、血液に寒邪を入りやすくしてしまいます。
(3)ストレス
ストレスを上手く発散できない状態が続くと、気が滞る「気滞」の状態になります。血液は気の力で体内を巡っているため、気が滞ると血液も滞りやすくなり「瘀血」の症状を引き起こすことが多いです。
(4)運動不足、長時間同じ姿勢でいる
姿勢が悪い、長時間同じ姿勢を保つと血行が滞りやすくなります。デスクワークをされている方は、小まめに体を動かし、緑のある場所を見てリラックスすると良いでしょう。
「瘀血」タイプおすすめの食材
血の巡りを促す食材として、辛味野菜、青魚がおすすめです。青魚がもつ脂にはDHAなど血液をサラサラに促す作用があります。
・辛味野菜:玉ねぎ、ねぎ、しょうが、山椒
・青魚:いわし、さんま、さば、にしん、あじ
・他にもおすすめの食材:どじょう、らっきょう、にんにく、にら、なす、くわい、黒きくらげ、黒酢、桃、さくらんぼ、シナモン、紅花、サフラン、ローズ、ウコン、田七人参 など
なすは涼性なので、温性のものと合わせて調理するといいでしょう。しょうがをのせて焼きなす、玉ねぎやねぎと合わせて料理するなど。
また、黒きくらげは血の巡りを促すだけでなく、血を養う作用もあります。月経中などに特におすすめの食材です。
「瘀血」タイプおすすめのツボ
以下の2つのツボがおすすめです。
・慢性の肩こりを緩和する「肩井(けんせい)」
乳頭から真上に手をすり上げ、肩の一番高いところ
・月経痛を緩和する「三陰交(さんいんこう)」
内くるぶしの指4本分上の骨の後ろ。お灸で温めるとさらに効果的です。
体質チェックで「瘀血」タイプがあると診断された方は、日々の食事やマッサージで、血の巡りを促す養生を心がけましょう。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。