監修:張 成龍(中医学講師)
中国史上、女性として唯一皇帝の座に就いた「武則天(ぶそくてん)」。優れた才覚はもちろん、その類まれな美しさでも知られ、近年、中国であらためて注目を集めています。今回は、そんな彼女の美の秘訣がテーマ。愛用の化粧品と伝えられる「神仙玉女粉」にスポットを当てながら、中医美容の知恵を紐解いていきます。
中国に語り継がれるただ一人の女性皇帝
武則天(則天武后)は、中国史上唯一の女帝として知られる唐代に生きた女性。若くして後宮に入ると、その聡明さと強い意志で頭角を現し、やがて皇后の座に就きました。その後、皇帝が崩御すると政治の実権を握り、自ら皇帝として即位。国号を唐から周へと改め、国を治めていきます。
彼女は、身分にとらわれない人材登用のために科挙制度(官僚登用試験制度)を整えたり、税の負担を軽減して農民の暮らしを安定させたりと、政治改革にも手腕を発揮しました。一方で、権力維持のために厳しい政治を行った面もあり、その評価は現在も功罪両面から語られています。
とはいえ、女性が政治の表舞台に立つことがほとんど許されなかった時代に、武則天は自らの才知と行動力で皇帝まで上り詰めた人物。女性の強さと知性を象徴する存在として、中国では今なお多くの人々を魅了し続けています。
人々を惹きつけた武則天の美しさ
さて、“唯一の女帝”というシンボリックな一面もさることながら、武則天はその美しさでも広く知られています。単に整った容姿というだけでなく、知性や品格がにじむような佇まいで、周りの人々は自然と彼女に惹きつけられたのだそう。年齢を重ねてもその印象は衰えず、政治の頂点に立ちながらも美を磨き続けた姿が語り継がれています。
その美しさの秘訣とされるのが、武則天が愛用した「神仙玉女粉」。自然素材からつくられたパウダーで、これをスキンケアに使うことで艶やかな肌を保っていたのだとか。その効果は当時の中医学でも認められ、後に薬学書『新修本草』にも美容処方として正式に記されました。
次項では、神仙玉女粉に使われた素材と、そのこだわりの製法についてご紹介します。
「神仙玉女粉」に配合されるのは、調和する3つの生薬
漢方の処方には複数の生薬が使われますが、その配合は「君臣佐使(くんしんさし)」という考え方に基づいています。主体となる薬の効果を十分に発揮するための配合で、それぞれの役割は次の通り。
● 君薬:主体となる重要なもの
● 臣薬:君の相乗効果を引き出すもの
● 佐薬:君・臣を補佐するもの
● 使薬:君・臣・佐を調和させるもの
神仙玉女粉もこの君臣佐使に基づいた配合で、次の3つの生薬からつくられています。
[君薬]益母草(やくもそう)
性味:微寒、苦辛
帰経:肝、心、腎
効能:血の巡りを良くして月経を整える(活血調経)、熱や毒素を取り除く(清熱解毒)、むくみを取る(利水消腫)
中医学では、くすみ、肌荒れ、シミといった不調は、「血行不良」や体内にこもった「湿」「熱」などが原因と考えます。そのため、益母草で血の巡りを改善し、湿や熱を取り除くことで、トラブルの起こりにくい健やかな肌を保つことにつながります。
薬学書『本草拾遺』にも、「面薬に用いれば、肌に光沢を与え、吹き出物を治す」と肌を整える効能が記されています。
[臣薬]滑石(かっせき)
性味:寒、甘
帰経:膀胱、胃、肺
効能:余分な熱と湿を取り除く(清熱利湿)
現代で考えると、ミネラルベースのクレンザーのようなもの。主に吸着、清浄剤として働き、皮脂や汚れを吸着して毛穴の詰まりを防ぎます。また、微細な粒子で古い角質を取り除くことができるので、古代の“ピーリング剤”ともいえます。
医学書『千金要方』には、「滑石は肌を滑らかにし、垢や脂を取り除く」と記されています。
[佐薬]胭脂(えんじ)
主に紅花から作られる赤色で、顔色を明るくしてくれます。血の巡りが促され、肌の血色を良くしてくれる効能も。神仙玉女粉の色味・艶出し・美的効果を高めるために加えられていたと考えられます。
〜三薬の調和で健やか美肌へ〜
益母草は血行を促しつつ肌を乾燥させず、滑石は清浄作用がありながら肌を冷やし過ぎず、胭脂は色づきを与えながら肌をべたつかせることがありません。
この3つの生薬が互いに補い合い、肌の内と外、陰と陽のバランスを整えることで、健やかな美肌へと導くと考えられていました。
中医学の知恵が活きるこだわりの製法
自然のリズムや素材への深い理解に基づいてつくられた神仙玉女粉。『新修本草』にも記された、その製法の3つのポイントをご紹介します。
ポイント1. 薬は“一番いい時期”に採る
中医学では、“薬は最適な時期に採ることで効果が増す”と考えられています。益母草の採取に最適なのは、陽気が盛んな端午の節句(旧暦5月5日)の頃。この時期の益母草は生命力が強く、薬効が最も高まるとされ、神仙玉女粉に用いられました。
ポイント2. じっくりゆっくり。ベストな火加減で
はじめは強火、その後は弱火で。じっくりゆっくり一昼夜かけて、生薬を煅焼(※)します。この火加減をうまくコントロールすることで、余分な熱や雑味を取り除き、必要な成分だけを抽出しました。
※煅焼(かしょう):生薬などの素材を高温で焼き、性質を整える伝統的な加工方法
ポイント3. 相乗効果をもたらす薬づくりの道具
生薬をすり潰すときには、玉や鹿角の杵を使用。玉はほんのり温かく、鹿角にはリン脂質や微量のカルシウムが含まれています。そのため、すり潰す過程でこれらが生薬に影響し、相乗効果をもたらすと考えられていました。
いかがでしたか?武則天の美肌を支えたとされる神仙玉女粉には、中医学の知恵がたくさん詰まっていました。成分の新たな知見などもあり、現在ではそのまま使われることはありませんが、その基本的な考え方は今も変わらないもの。次回は、そんな中医学の知恵を現代に活かす、美肌づくりのヒントをご紹介します。
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この記事を監修された先生
中医学講師張 成龍
張 成龍(ちょう せいりゅう)中医学講師。中国・遼寧中医薬大学 国医堂にて、叢法滋、陳以国ら名医・名師のもとで6年間研鑽を積み、鍼灸および内科領域における高度な臨床技術を習得。中国では鍼灸内科を中心に、循環器内科・皮膚科・糖尿病内科・リウマチ内科・腫瘍内科など多岐にわたる診療科にて従事。北京紫禁城国医館では総合診療も経験。2017年に来日後は、「イスクラ産業株式会社」および「イスクラ中医鍼灸院」にて臨床と研究を継続し、日本における中医学の発展に寄与している。
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