監修:楊 敏 先生(中医学講師)
増えていく抜け毛や白髪、気づくとできていた円形脱毛……。こうした髪の悩みは見た目にも影響しやすく、モヤモヤした不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。特に、秋は抜け毛が多く髪のトラブルが気になりやすい時期。この機会に体の中からきちんとケアをして、健やかな髪を守りましょう。
体内の不調が髪に現れる
抜け毛や白髪、円形脱毛といった髪のトラブルには、体内の不調が大きく影響しています。例えば、偏った食事や過度なダイエットで体の栄養状態が悪くなると、髪の栄養も不足して抜け毛や薄毛、枝毛などの要因に。一方、高脂肪、高カロリーの食事を続けていると、ドロドロ血で血行が悪くなり、髪や頭皮に十分な栄養が届かなくなります。また、過度なストレスでホルモンバランスや胃腸の不調を招くと、白髪や円形脱毛につながることもあります。このように、髪のトラブルは“体の不調のサイン”でもあります。気になる症状があれば積極的に改善して、髪も体も健やかに保ちましょう。
髪と深く関わるのは「血」と「腎」
中医学でも、髪と身体の状態は深く関わっていると考え、“髪は血の余り・腎の華”とも言われます。これは、体内の「血」が充実して余裕があれば、髪にも十分な栄養や潤いが行き届くということ。また、老化症状やホルモン分泌と関係する「腎」が強ければ、白髪や薄毛になりにくく、黒くツヤのある髪が保たれるとされています。反対に、血の不足や腎の虚弱があると、髪の元気がなくなり、抜け毛や白髪といった不調が起こりやすくなります。また、過剰なストレスによる「肝」の機能低下にも要注意。気の巡りが停滞して体内に余分な熱がこもり、これが髪にも影響して円形脱毛や若白髪などにつながります。
よくある髪トラブル別の対処法
今回は「抜け毛・薄毛」「若白髪」「円形脱毛」の対処法をご紹介します。健やかな髪は健康な身体からつくられるもの。気になる症状がある人は、積極的に体質を改善しましょう。
【抜け毛・薄毛】
髪が抜ける本数は1日50〜100本程度。秋は髪が生え変わる時期とされ、1日200本ほどに増えます。この目安を超えて“抜け毛が多い”と感じる場合は、積極的にケアしましょう。抜け毛の主な要因となるのは、髪に栄養や潤いを与える「血」の不足と「腎」の虚弱です。また、髪のベタつきが気になる人は「痰湿(余分な水分や汚れ)」が溜まっていることも。まずは日々の食事で血と腎をしっかり養い、髪がベタつく人は痰湿を取り除くことを心がけましょう。
◎髪の症状
抜け毛、薄毛、枝毛、切れ毛、髪が細い、髪のパサつき(血不足の人)、髪のベタつき(痰湿が溜まっている人)
[おすすめ食材]
気・血・腎を養う:山芋、ほうれん草、小松菜、黒米、ひじき、黒豆、大豆、レバー、肉類、えび、ごま、くるみ、ブルーベリー、プルーン、枸杞の実、なつめ など
痰湿を取り除く:上記の食材 + 海藻類、雑穀類、はと麦、大根、ごぼう、きゅうり、緑豆、もやし、春雨、青魚 など
☆生薬:何首烏(かしゅう)
補腎、養血の効能がある美髪の代表生薬。20分ほど煎じればお茶として飲むこともできます。
〜おすすめメニュー〜
・クラッシュナッツ(毎日1スプーン)
・黒ごま・松の実・くるみ(2:1:1の割合)をミキサーで粗挽きに。はちみつ漬けやヨーグルトのトッピングにするのもおすすめ。
・黒米、はと麦、ひじき、かきの炊き込みご飯
【若白髪】
20〜30代で白髪が増えてしまう症状。白髪が頭頂部に多い場合は「腎」の虚弱、側頭部に多い場合は「肝」の不調が主な要因となるため、状態に応じて対処しましょう。いずれの場合も熱がこもりがちなので、腎、肝の働きを整えながら、過剰な熱を冷ますことが大切です。
◎髪の症状
部分的な白髪、髪全体の白髪
[おすすめ食材]
腎を養い熱を冷ます:牛乳、豆乳、豆腐、トマト、ゆり根、豚肉、すっぽん、ほたて、はまぐり、梨、メロン、松の実、ごま、白きくらげ、菊花、枸杞の実、桑の実 など
肝を整え熱を冷ます:下記「円形脱毛」の食材 + 苦瓜、くちなし、はぶ茶 など
☆生薬:桑椹(そうじん(桑の実))
血や潤いを養い、髪をきれいにする生薬。洋名はマルベリー。
〜おすすめメニュー〜
・豚肉、ほたて、豆腐入りの豆乳鍋
・桑の実ジャム
【円形脱毛】
円形に髪が抜けてしまう症状で、過度なストレスや疲労、睡眠不足などが要因に。このタイプは「肝」がダメージを受けて気の巡りが停滞し、憂うつ感やイライラといった精神不調を感じやすいことが特徴です。日頃のストレスをこまめに発散し、肝の働きを改善するよう心がけましょう。
◎髪の症状
10円玉ほどの円形や楕円形に髪が抜ける
[おすすめ食材]
肝を整え気を巡らせる:春菊、三つ葉、せり、セロリ、金針菜、いか、たこ、しじみ、あさり、柑橘類、ミント、ローズ、ラベンダー、カモミール など
☆生薬:玫瑰花(まいかいか(ローズ))
肝の働きを整え、気・血を巡らせる生薬。ローズのアロマオイルやお茶もおすすめ。
〜おすすめメニュー〜
・あさりやしじみの味噌汁(三つ葉を添えて)
・ローズミントティー
生活習慣のポイント
・バランスの良い食事でしっかり栄養を取り、髪にも栄養を。
・早寝早起きを心がけ、十分な睡眠を。成長ホルモンは深い睡眠中に分泌されるため、眠りの質を高めることも大切です。
・適度に体を動かして血流を良く。頭皮にもしっかり血を巡らせましょう。
・ストレスは髪トラブルの要因に。会話や趣味を楽しみ、ストレスを溜めない生活を心がけて。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。