監修:楊 敏 先生(中医学講師)
よくわかる中医学vol.17
よくわかる中医学シリーズ、今回のテーマは人の感情を7つに分けた「七情(しちじょう)」です。
前回のよくわかる中医学では、気象・環境などの外部から及ぼされる影響について「六淫(ろくいん)」を紹介しました。それに対し、「七情」は感情なので、内部が及ぼす影響として「内傷七情(ないしょうしちじょう)」と呼ばれています。
日常生活で揺れ動く感情がわたしたちの体に与える影響についてみていきましょう。
健康とは、「体」と「心」の両方がすこやかであること
(1)食飲有節:飲食の量・質・時間の節度を守る
(2)起居有常:生活のリズムを守る
(3)不妄作労:肉体的、精神的な過労を避ける
(4)虚邪賊風、避之有時:外邪の侵入を防ぐ
(5)精神内守:精神を安定させる
感情がおよぼす影響「病は気から」
「病は気から」という言葉がありますよね。「気」は内臓や体内の組織・器官のはたらきを活発にし、生命活動を支えるエネルギーのこと。「気」の状態が悪くなると臓器などのはたらきが悪くなり、さまざまな病気を起こすと考えられています。逆に、五臓が弱まっていると、感情も外界のさまざまな刺激の影響を受けやすくなります。
また、精神を安定させる基盤は「血(けつ)」です。血の過不足や血の停滞は、精神にも影響を及ぼします。
例えば、血が多すぎるとイライラした怒りの感情が強くなり、血が足りていないと恐怖心や臆病な感情が強くなります。また、血の停滞は気の巡りも滞らせるため、怒りがちになってしまうことがあります。
血が過不足なく、十分に巡っている状態であることは、体だけでなく精神の健康にとっても重要です。
感情が強すぎると五臓に影響する
(1)怒:「肝(かん)」(肝臓)
怒りすぎると、肝の気が上昇し、血を伴って頭部に上ります。
(2)喜:「心(しん)」(心臓)
喜びすぎると、心の気が緩み、精神を安定させる作用を失調してしまいます。
(3)思・憂:「脾(ひ)」(胃腸)
思い込みや悩みすぎで精神疲労が続くと、気が鬱結(うっけつ)し、脾の働きを失調してしまいます。
(4)悲:「肺」
憂い、悲しみすぎると、肺の気を抑え、肺を傷つけてしまいます。
(5)恐・驚:「腎(じん)」(腎臓)
恐れすぎると、腎の気が持つ固摂作用(液体が漏れ出ないようにする働き)を失調させ、気が下がってしまいます。また、急な驚きは気を乱し、心・腎の働きも乱れてしまいます。次回のよくわかる中医学では、七情が五臓におよぼす影響とその症状、対処法を詳しく説明していきます。
※「憂」は脾に属するとする説と、肺に属するとする説があります。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。