監修:楊 敏 先生(中医学講師)
近年、日本では「不妊」を心配する人が増え、その割合は夫婦の約3組に1組とも言われています。こうした状況を背景に、現在では不妊治療の保険適用もスタート。サポート環境も整ってきた中、スムーズに妊活を進めるためにも、まずは土台となる体質を整えて“妊娠しやすい体づくり”をめざしましょう。
「不妊」の基礎知識
不妊は、一般に“避妊をせず性交をして1年以上妊娠しない場合”とされています。その原因は男女にあり、女性では排卵や卵管、着床の障害、男性では造精機能や性機能の障害があげられます。
また、男女とも加齢によって妊娠の力が低くなることもわかっていて、女性は卵子の老化や子宮疾患のリスク増加、男性は精子の質の低下などがその主な要因となります。
不妊の原因が男女どちらにあるか、その確率はほぼ半々。そのため、“妊娠しやすい体づくり”も2人一緒に取り組むことが大切です。
“妊娠しやすい体”とは?
中医学では、体内の「気(エネルギー)」「血」「精(生命エネルギーの源)」が充実し、スムーズに巡っている状態が“妊娠しやすい体”と考えます。また、臓では「腎」「肝」「脾(胃腸)」の働きが妊娠と深く関わっています。
・腎:生殖やホルモン分泌と関わり、精を蓄える。
・肝:血を貯蔵し、月経を調整する。気の巡りを整える。
・脾:食事の栄養から気・血を生み出す。
このように、 “妊娠しやすい体”をつくるためには、腎・肝・脾胃の働きを整え、気・血・精を充実させることが基本となります。
【妊娠と年齢の関係】
中医学では、女性は7年、男性は8年の周期で体に変化が訪れると考えます。これは生殖や成長と関わる「腎」の働きから見たもので、女性は35才、男性は40才を境に腎の衰えが目立ち、妊娠しにくくなると考えます。この年齢の目安は、現在の西洋医学でも同様です。
男女節目周期表
体質別・妊娠力アップの養生法
体を妊娠しやすい状態に整えることは、妊活の基本。日々のケアで体質を改善し、妊娠力アップをめざしましょう。
「気血不足」タイプ
気・血が足りないと、全身のエネルギーや栄養不足、月経の不調などを招いて妊娠しにくい体質に。脾胃を整えてバランス良く栄養を取り、気・血をしっかり養いましょう。
[主な症状]
疲労感、めまい、少食、軟便、下痢、手足の冷え、髪や肌の乾燥、爪が白く割れやすい、舌の色が淡い、経血量が少なく色が薄い、下腹部の軽い月経痛
【おすすめレシピ】
・骨つきの鶏肉と長芋・にんじん・しいたけ・玉ねぎのスープ
※「当帰」を入れると効果アップ。煮込んだら食べる前に取り出して。
・ほうれん草と卵の炒めもの
「腎虚」タイプ
腎の働きが衰え、卵巣機能、造精機能などが低下して妊娠しにくい状態に。腎は加齢とともに衰えていくので、35才くらいからは特に意識してケアすることが大切です。
[主な症状]
基本:耳鳴り、めまい、腰痛、抜け毛、白髪、頻尿、排卵しにくい、経血量が少ない、月経中の腰や下腹部のだるさ・痛み
腎陽虚:月経周期が長い、強い冷え、舌の色が淡くむくんでいる、舌苔が白い
腎陰虚:月経周期が短い、不正出血、のぼせ、便秘気味、舌の色が紅く舌苔が少ない
【おすすめレシピ】
・腎陽虚:えびとにらの炒めもの
・腎陰虚:えび・百合根・枸杞の実入り茶碗蒸し
「気滞」タイプ
過剰なストレスなどで「肝」の働きが落ち、「気」の巡りが停滞しているタイプ。自律神経のバランスが崩れ、ホルモン分泌や排卵・月経周期の乱れを招いて妊娠しにくい体質になります。
[主な症状]
イライラ、憂うつ、肩こり、偏頭痛、冷えのぼせ、胃や腸の張り、ガスやゲップが多い、舌の両側が赤い、PMSの症状が強い、月経周期や排卵日の乱れ、月経前の乳房や下腹部の張り
【おすすめレシピ】
・いかとセロリの炒めもの
・ゆずの羊羹
「瘀血(血行不良)」タイプ
「血」の巡りが悪く、女性は子宮筋腫や子宮内膜症などを招いて着床しにくい状態に。また、男性は血の栄養が十分巡らず、精子の質の低下などを招きます。
[主な症状]
慢性的な肩凝り・頭痛、冷え、冷えのぼせ、顔色が暗い、舌の色が暗く斑点がある、経血の色が黒っぽく血塊が多い、月経痛が強い、子宮筋腫、子宮内膜症
【おすすめレシピ】
・蒸しなすの山椒ソース
・黒くらげ入りさばのみそ煮
「痰湿」タイプ
「痰湿(余分な水分や汚れ)」が溜まって脂肪が増え、ホルモンバランスが悪い状態に。また、ベトベトした痰湿が卵管や精路に停滞し、妊娠しにくい体質につながります。
[主な症状]
肥満気味、身体が重だるい、めまい、むくみ、痰が多い、吐き気、軟便・下痢、舌のむくみ、舌苔が厚くベタついている、経血量が少ない、希少月経または無月経
【おすすめレシピ】
・ひじき入り雑穀ごはん
・山査子入りのウーロン茶やプーアール茶
妊娠力をアップする暮らしの養生
今の不養生は将来の体質につながります。“いつかは子どもを”と考えている人は、生活習慣を整えることを意識しましょう。
・暴飲暴食、過度なダイエットなどは避け、バランスの良い食生活を。
・過労や睡眠不足は妊娠力の低下を招きます。しっかり休息、12時前の就寝を意識して。
・生理中は保温第一(特に腰回り)。冷たい飲食や体が冷える服装はNGです。
・適度な運動を習慣に。気血の巡りを促して、ストレス解消にもつながります。
・ストレスは妊娠力アップの大敵。妊活がストレスになっては本末転倒なので、神経質にならずおおらかな気持ちで。
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この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。