監修:楊 敏 先生(中医学講師)
夏の朝、ちゃんと寝たはずなのに頭がスッキリしない、仕事に集中できずぼんやり眠たい…そんな経験をした人も多いはず。これにはさまざまな原因がありますが、夏特有の「睡眠障害」と関係している可能性があります。
今回は、そんな夏の睡眠障害を乗り切るタイプ別の対策・養生法をお伝えします。
睡眠は健康に必要不可欠なもの
睡眠は人生の約1/3を費やし、体と脳(心身)の疲れをリフレッシュするために必要不可欠なものです。必要な睡眠時間は人によっても異なりますが、一般的に「起きた時に頭がスッキリしている」「昼間にあまり眠気に襲われない」状態が良いとされます。
しかし、日本の夏は熱帯夜が続き、寝苦しく睡眠障害を起こしやすい季節です。睡眠障害が続くと、夏バテや仕事に集中できないなど、日常生活にも支障をきたしかねません。やはり、それぞれの症状に合わせた対策と養生が大切になってきます。
そんな睡眠障害をお悩み別に3つのタイプに分けて紹介していきます。
そんな睡眠障害をお悩み別に3つのタイプに分けて紹介していきます。
(1)暑くてなかなか寝付けない
夏は、五行説では心(神)と深く関係する季節。
中医学の大家である張景岳は「神安則寐、神不安則不寐」(「神」が安寧すれば眠れるが、安寧しないと眠れない)という言葉を残しています。つまり、真夏は蒸し暑くて心に熱が発生(心火)しやすく、その熱がこもることで精神が乱れてしまいます。このような状態が続くと寝つきが悪くなるため、清心安神(心を落ち着ける)が大切です。
中医学の大家である張景岳は「神安則寐、神不安則不寐」(「神」が安寧すれば眠れるが、安寧しないと眠れない)という言葉を残しています。つまり、真夏は蒸し暑くて心に熱が発生(心火)しやすく、その熱がこもることで精神が乱れてしまいます。このような状態が続くと寝つきが悪くなるため、清心安神(心を落ち着ける)が大切です。
●快適な環境作り
寝室は、冷房や冷風を用いて涼しい状態にしておきましょう。夏は少し遅くまで起きていても良いので、涼んで体の熱を冷ましてから寝室へいくのもおすすめ。(『黄帝内経』の養生訓にも、夏だけは遅くに寝ても良いとあります)
ただし、夜の12時くらいには寝るように心がけましょう。
ただし、夜の12時くらいには寝るように心がけましょう。
●清熱消暑の食材
きゅうり、苦瓜、ヘチマ、トマト、空心菜、すいか、なす、緑豆、緑豆春雨、豆腐 など
●清心安神の食材
金針菜、百合根、蓮子心、蓮肉 など
●おすすめメニュー
・きゅうりと苦瓜(3:0.5)のスムージー(お好みで安眠作用がある牛乳を加える)
・金針菜とイカの炒めもの
・蓮肉と百合根のスープ
●寧心安神のツボ
神門(しんもん)…手首のしわの小指側端、手首をそらすとくぼむところ
(2)イライラして眠れない、夢が多く目が覚めやすい
仕事や対人関係でストレスが溜まると、自律神経を主る「肝」(肝臓)が異常になり、「肝鬱化火(かんうつかか)」に陥ります。すると、五行説の母子関係にある「心」に熱が発生している状態「心火」となり、精神が乱れてイライラして眠れなくなったり、寝ても嫌な夢で目が覚めてしまうのです。このような症状には、「疎肝理気(そかんりき)」(肝の気を巡らせ疎通させる)が有効です。
●適度な運動とリフレッシュ
寝る前にストレッチやヨガで適度な汗をかき、頭を空っぽにすることで交感神経の興奮を鎮め、副交感神経が優位になる状態に変えていきましょう。
安神作用のあるアロマを炊きながらやると相乗効果も期待できます。
安神作用のあるアロマを炊きながらやると相乗効果も期待できます。
●カフェインが入った飲み物を控える
コーヒー、紅茶、緑茶などカフェインが入った飲み物は、交感神経を優位にさせます。控えるか、午後からは飲まないようにして、代わりにほうじ茶、ラベンダー、カモミール、菊花、ミントなどのリラックス作用のあるハーブ類を加えた飲み物にしましょう。
●寝る前の時間から整える
寝る前は、ゆったりした音楽を聴いたり、首筋や枕の縁に一滴のラベンダー精油(気持ちを落ち着かせる香水でも可)を垂らしたり、心身をリラックスさせると寝つきが良くなります。
また、難しそうな本を読むことで睡魔を誘うこともあります。ただし、スマホやパソコンのブルーライト、ゲームなどは神経を興奮させてしまうので控えましょう。
また、難しそうな本を読むことで睡魔を誘うこともあります。ただし、スマホやパソコンのブルーライト、ゲームなどは神経を興奮させてしまうので控えましょう。
●疎肝理気のツボ
行間…足の甲にある親指と人差し指の間
(3)食べ過ぎて眠れない
夜に食べ過ぎたり飲み過ぎたりすると、胃が張って苦しくなり、げっぷやガスが頻繁に出てなかなか眠れなくなることがあります。脾胃の消化機能が異常をきたすと睡眠障害にも繋がるため、「健脾和胃(けんぴわい)」(胃腸を整える)が大切になってきます。中医学のバイブル『黄帝内経』でも「胃不和則臥不安」(胃の不調は則ち不安につながる)と記されています。
●暴飲暴食は避ける
夜の暴飲暴食は止めて、夕飯は21時くらいまでに済ますのが理想です。また、少量のお酒は寝付けに良いですが、飲み過ぎると(とくにビールの飲み過ぎ)、夜間頻尿で熟睡障害を起こしやすいので注意しましょう。
●消化を促すお茶を取り入れる
食べ過ぎてしまった時は、食後に陳皮(乾燥したみかんの皮)、サンザシ、玄米をお茶として飲んでみましょう。また、胃腸のぜんどう運動を促し、消化吸収を助けるプーアル茶に陳皮を入れるのもおすすめです。
●和胃降気(胃を整え、上がった気を下ろす)のツボ
足三里(あしさんり)…膝頭の外側の下にできるくぼみから指4本下
お昼寝を取り入れ午後も元気に!
時間と体の働きの関係を現す「子午流注(しごりゅうちゅう)」において、「子」は夜の12時、「午」は昼の12時を指します。とくに「午」の時刻は、心の経絡に最も影響しやすい時刻。寝苦しい短夜の夏は、ランチ後に少しの時間で良いので昼寝(15~30分ぐらいの仮眠)をするのがおすすめ。心が落ち着き、日中を元気に過ごせることにつながります。
ぜひ、上記のタイプ別の養生法に加え、昼寝を取り入れて夏を乗り切りましょうね。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。