監修:楊 紅娜(中医学講師)
楊紅娜先生のBeauty & Relax Vol.11
10月に入ると、季節はそろそろ秋本番。さわやかな風が吹く気持ちのいい季節になりますが、一方でなんとなく憂うつになったり、気分が落ち込んだり、といった不調を感じる人も少なくありません。こうした症状は単なる気のせいではなく、“冬季うつ”と呼ばれる精神トラブルの可能性も。不調が続く場合は放置せず、きちんとケアしてココロの元気を取り戻しましょう。
冬季うつは“よく食べて、よく眠る”
“冬季うつ”の正式病名は「季節性感情障害(SAD)」で、“ウインター・ブルー”などとも呼ばれます。秋から冬にかけてうつ症状が現れ、春になると回復することが特徴で、20〜30代の女性に多く見られます。精神的な症状は「気分が落ち込む」「気力 がなくなる」「ものごとを楽しめない」「倦怠感がある」といったもので、これは一 般のうつ病とほぼ変わりありません。一方、一般的なうつ病では食欲が落ち、不眠傾向が現れるのに対し、冬季うつは食欲旺盛で過食気味になり、睡眠も過剰になる傾向があります。
<冬季うつの特徴>
・過食傾向
・体重の増加
・過眠傾向
冬季うつの原因には、季節や日照時間が大きく影響していると考えられています。これは、光に当たる時間が減ることで、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」の分泌量が減少するため。また、日照時間が短くなると、睡眠に作用する「メラトニン」の分泌が増加し、体内時計が乱れてしまうこともあります。実際に、冬の日照時間が短い高緯度地域ほど冬季うつの発症が多い傾向にあり、米アラスカ州とフロリダ州の発症率は9:1という調査結果も出ています。食欲旺盛でよく眠る冬季うつは、ココロの不調と気付きにくいことも。食べても寝ても、倦怠感がある、やる気がおきない……。そんな感覚が続いたら、冬季うつかも?と考えて早めに対処しましょう。
体内の「陽気不足」が冬のうつ症状を招く
“ココロとカラダは一つ”と捉える中医学では、精神的なトラブルにも体の不調が深く関わっていると考えます。冬季うつの大きな要因となるのは、「心」「脾(腸)」「腎」の陽気(体を温めるエネルギー)不足。心の陽気が足りないと、精神的にも元気がなくなり、睡眠のバランスも崩れやすくなります。また、脾が陽気不足になると、食事の栄養を消化吸収する機能が低下。すると、心にも十分な栄養が巡らず、うつ症状や過眠を招く要因となります。さらに“胃は強く脾は弱い”という状態になると、食欲が増して過食気味になる一方、代謝が落ちて太りやすくなることも。また、全身の陽気の源である腎陽が衰えると、他の臓器にも影響し、心や脾の陽気不足につながることもあります。こうした陽気不足体質には、遺伝などの先天的な要因と、生活習慣による後天的要因があります。
[先天的と考えられる主な要因]
・両親が陽気不足の体質
・受胎期に両親の心身状態が良くない
・母親が高年産婦(35歳以上の初産婦)だった
・母親が妊娠中に冷たいものを過食していた
・早産で生まれた など
[後天的と考えられる主な要因]
・冷たい飲食が多い。特に朝起きて冷たいものを飲む習慣
・涼性食材(貝、海藻類、果物、葉物野菜など)の食べ過ぎ
・日常的に緑茶を飲む習慣
・薄着、冷房などによる体の冷え
・睡眠不足(夜更かしは陽気の消耗につながります)
・抗生物質の濫用 など
後天的要因は、食事や生活習慣を改善することで取り除くことができるもの。不調を感じている人は日々の生活を見直し、心身を健やかに整えることを心がけましょう。
陽気アップで冬季うつを改善
体内の陽気が不足していると、それぞれ下記のような症状が現れます。まだうつ症状がない人も、陽気不足を放っておくと精神不調を起こしやすくなってしまうので要注意。気になる症状がある人は積極的に体質を整えて、心身ともに冬を元気に過ごしましょう。
体質別の症状
●「心・腎」の陽気不足
過眠、無力感、物忘れ、夜間頻尿、舌が腫れぼったい、舌の色が淡く舌苔が白い
●「心・脾」の陽気不足
過眠、夢が多い、物忘れ、食欲不振、軟便・下痢、舌が腫れぼったい、舌の色が淡く舌苔が薄い
●「脾・腎」の陽気不足
虚弱、冷え、食欲不振、足腰が弱い、夜間頻尿、軟便・下痢、舌が腫れぼったい、舌 苔が白い
●「肝」の陽気不足
怖がり、おどおどする、肋骨あたりの痛み・張り、無力感、冷え、舌が腫れぼったい
冬季うつの養生法
いずれの体質も、養生の基本は“陽気を養うこと”。食養生、日光浴や運動の習慣などで、陽気不足を改善していきましょう。
【陽気を養う食材】
シナモン、フェンネル、クローブ、こしょう、山椒、くるみ、栗、黒ごま、にら、にんにく、らっきょう、山芋、えび、羊肉、うなぎ、紅茶、プーアル茶、しょうが茶など
★おすすめ生薬:肉桂(シナモン)
うつ症状に関わる心、腎、脾、肝に働きかける生薬。体を温め、陽気を養います。
★おすすめ薬膳:
・当帰、生姜入り羊肉の煮込み
・枸杞の実入り烏骨鶏の煮込み
・にらとえびの炒めもの
【ツボ】
大椎(だいつい)、命門(めいもん)、腎兪(じんゆ)、関元(かんげん)、神闕(しんけつ)
【暮らしのポイント】
・積極的に外に出て太陽の光を浴びましょう(30分以上を目安に)。
※曇り空でもOKです。
・適度な運動習慣は、陽気を養うためにも効果的。
※有酸素運動は、セロトニンの分泌を促す効果も期待できます。
・規則正しい生活を心がけ、体内時計の乱れを整えましょう。
・冷えは陽気を消耗します。季節を問わず“温かい飲食”“冷えない服装”を心がけて。
・日々の睡眠、休息を十分取って、心身の疲れを回復しましょう。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 紅娜
楊紅娜(よう こうな)中医学講師。 登録販売者。鍼灸師。 2006年遼寧中医薬大学修士号取得。 2006年~2016年、大連市にて精神科臨床医として10年間勤務。 「中国摂食障害の防治指南」の編集委員担当。 2016年来日。日本にて登録販売者、鍼灸師取得。