昨年末に発生し、世界に感染が拡大している「新型コロナウイルス感染症」(COVID-19)は、発熱、から咳、倦怠感、一部の患者の中には鼻詰まり、鼻水、喉の痛み、筋肉痛や下痢などの症状がみられる疫病です。日本においても感染者の急増に伴い医療供給体制が逼迫するなどすでに課題が浮き彫りになっています。
今回は、今なお中国・武漢で治療に当たっている天津中医薬大学学長 張伯礼(ちょうはくれい)教授を講師に迎え、医療現場での経験とそれに基づくアドバイスを伺いました。
※4月11日(土)に行われたWeb交流会「COVID-19の予防と治療における中医学の対応について」(日本中医薬研究会主催)の講義内容から一部抜粋したものです。
中医学の視点から解説する「新型コロナウイルス感染症」の特徴
1つ目の特徴は「湿邪(しつじゃ)」(体内の不要な水分など)で、「毒」が基本病機となっている「湿毒疫(しつどくえき)」です。
もう1つの特徴は、病位が手足の太陰経である「肺」と「脾(ひ)」(胃腸系)を中心とし、他臓腑にも影響を及ぼしていることです。
・中等症期…発熱や呼吸器症状、画像で肺炎が見られる
・重症期…呼吸が1分間30回以上、安静時の酸素飽和度が93%以下など
・重篤期…人工呼吸器を必要とするなど
・回復期
どの段階においても中西医結合での対応が大いに役立ってきました。
中医学で考える感染者に多く見られる体質
中医学では舌を見てその人の体質や症状を判断する「舌診(ぜっしん)」を行います。
新型コロナウイルス感染症の感染者には、段階ごとで主に以下のような舌の状態が見られました。
・軽症期…舌の色は淡い紅色、厚くて白い舌苔がべっとりとついている
・中等症期…黄色または白色の舌苔がべっとりとついている
・重症期…舌の色は紅色、黄色い舌苔がべっとりとついている
・重篤期…舌の色は暗い紫色、舌は乾燥状態もしくは厚くべっとりとした舌苔がついている
・回復期…舌はむくんでいる状態もしくは潤いが少ない状態
回復期後も油断できない「新型コロナウイルス感染症」
この病気は「湿」が特徴で、湿が熱化、寒化、燥化するともいわれ、変化は非常にさまざまです。
一部の人で初期に悪寒がありますが、多くの場合は湿から熱化します。燥化の場合は、舌が乾燥していることで判断します。
感染すると痰が肺胞の中に粘って溜まりますが、回復すると痰は排出されます。その時に検査をするとまた陽性になりますが、回復期の陽性は溜まった痰がでてくることに伴うものなので、ほとんどが死んだウイルスだと考えられます。
軽症の患者は大きな後遺症はないと考えられていますが、問題は重症患者です。重症患者は治ったとしても、肺の中に炎症が少し残っています。それだけではなく、肺・心・腎機能、免疫機能も損傷を受けてしまいます。
基本的に「扶正袪邪(ふせいきょじゃ)」(体に不足している必要なものを補い、有害なものは取り除くこと)の対応をとり養生します。特に、気を補い潤いを養う「益気養陰(えっきよういん)」が有効と考えられます。
中国の経験から学ぶ、感染拡大を防ぐ対策
感染拡大を防ぐためには、PCR検査を重視し、厳しい隔離措置を行うことが重要だと考えています。
無症状感染者も感染源の一つです。軽微な症状の場合も厳しく隔離し、治療を標準化することでウイルスが陰性になるまでの時間を短縮することができます。
もちろんマスク、手洗い、3密を避けるといった基本的な予防措置は不可欠です。
ウイルスには国境がありません。民族も選びません。疫病との戦いは皆さん一人ひとりの意識と努力が大きく左右します。協力し合っていきましょう。
【講師】
張伯礼(ちょうはくれい)教授
中国工程院院士、中国中医科学院名誉院長、天津中医薬大学学長
新型コロナウイルス感染症発生直後にいち早く武漢の医療現場に赴き、2ヵ月に亘り1000人以上に中医学による治療を実践された。