監修:楊 敏 先生(中医学講師)
よくわかる中医学vol.26
今回から6回に分けて、体質ごとの特徴と養生法をお伝えしていきます。
今回のテーマは「気」が不足している「気虚(ききょ)」タイプです。「気」とは体の動きや機能を支えるエネルギーの源のこと。エネルギーの不足は体の不調となって現れます。
自分はどのタイプなのかまずは体質チェックを。気虚タイプが強い方は特に要チェックです。
「気虚」タイプに見られる主な症状
(1)疲れやすい・だるい
元気の「気」が足りていない典型的な症状です。「脾気虚(ひききょ)」(胃腸の気の不足)、「腎気虚」、「肺気虚」が原因で体の気が不足してしまい、体の疲れ・だるさを引き起こします。
(2)かぜが長引きやすい
免疫力と関係の深い肺の気や「衛気(えき)」(免疫力)が不足しています(肺気虚・衛気虚)。季節の変わり目に花粉症になりやすい人もこのタイプが多いです。
(3)息切れしやすい
肺などの気が不足していて、少し動くとすぐ息切れしてしまいます。
(4)冷え性
冷え性で気虚タイプの人は「陽虚(ようきょ)」という、体を温めるエネルギーが不足している状態です。手足や下半身から冷えやすく、ひどい場合は指先が白くなったり、霜焼けになりやすいです。
(5)声が細く大きい声が出ない
声が細くて小さい、力がない人は肺気虚タイプが多いです。
(6)胃もたれしやすい、食が細い
胃の気が不足していて、消化の働きが弱く、胃もたれや食が細いといった症状になりやすいです(脾気虚)。
(7)軟便・下痢しやすい
脾気虚のタイプで「湿」(余分な水分や汚れ)を上手く代謝できていない状態。(6)の症状も伴っている人が多いです。
(8)頻尿・夜間尿がある
水液を司る腎の気が不足していて、尿を留めるエネルギーが弱い状態です(腎気虚)。
「気虚」タイプに見られる舌の特徴
「気虚」タイプの人の舌には、以下のような特徴がみられます。一つでも当てはまっていれば気虚の傾向があると考えられます。
・淡白舌:舌の色が淡い
・胖大舌(はんだいぜつ):舌がむくんでいる
・歯痕舌(しこんぜつ):むくんでいるため舌の縁に歯の跡が見える
気虚や陽虚によって舌が養われず、色が淡白色になり、また水分代謝も上手くいかず、舌のむくみにつながっています。気虚で力がないため、むくんだ舌に歯痕が残ってしまっている状態です。
主な症状に該当するものがなくても、舌の特徴が一致する場合は気虚の可能性が考えられます。
「気虚」を引き起こしてしまう主な原因
(1)乱れた食生活
暴飲暴食、間食・辛いもの・油っぽいもの・生物・冷たい飲食物の摂りすぎ、夕食の時間が遅いなど食事時間の乱れ、少食や偏食、無理なダイエットといった「脾胃(ひい)」(胃腸)に負担をかける食生活。気は脾胃の消化機能によって作られるため、脾胃虚弱を招くと十分な気を作ることができなくなってしまいます。
(2)過労
食事のほか、気は休息によって養われます。無理な残業、夜ふかし、徹夜といった不規則な生活習慣によって休息が不足すると、気の消耗に繋がります。
2千年前の医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」には「労則傷気」という言葉があり、疲れが気を傷つけることを示しています。
(3)慢性疾患を抱えている
長期間続く月経痛など慢性疾患も気が消耗する原因の一つです。改善できるものは医療機関などで診てもらうようにしましょう。
(4)生まれつきの虚弱体質
(5)加齢・高齢
(1)、(2)については、少し意識することで改善することができます。仕事や家庭の事情で難しいこともありますが、健康のために生活を変えてみる意識をつけるようにしましょう。
「気虚」タイプおすすめの食材
気を養う食材として、イモ類・豆類・米類などがおすすめです。肉類(牛肉、羊肉、鶏肉)もおすすめですが、食べすぎは禁物です。料理する時間がないときには、1日1個熱を加えた卵を食べるようにしましょう。
・疲れやすい:大和芋、朝鮮人参を使ったサムゲタン など
・かぜを引きやすい:免疫力を強化するキノコ類、粘膜を強化する緑黄色野菜 など
・胃がもたれやすい、軟便・下痢をしやすい:消化を助けるキャベツ(熱を加えたもの)、長芋、なつめ、サンザシ、麦芽 など。
・気虚の症状に加えて冷えやすい:体を温めるねぎ、玉ねぎ、にら、らっきょう、シナモン など
「気虚」タイプおすすめのツボ
以下の3つのツボを押したり、簡単灸で据えるといいでしょう。
(1)気海(きかい)
おへその中央から指2本分下。気を補う作用があります。
(2)関元(かんげん)
おへその中央から指4本分下。同じく気を補う作用があるツボです。
(3)足三里(あしさんり)
膝頭の外側の下にできるくぼみから指4本下。強壮効果があります。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。