監修:車田 光穂 先生(中医アロマセラピスト)
手浴と中医アロマ
手浴と睡眠
夜が長く寒い季節は、なんだか寝付きが悪くなったり、夢見が悪くなることがありますよね。冬は、体を温め、活動させるエネルギーの大元である命門の火を守っている『腎』が弱りやすい季節です。
今回は、冷えなどを伴い、精神的にも不安定になりやすく、睡眠の質が下がり気味の方へおすすめの温活術、手浴をご紹介します。
1:手浴が良い5つの理由
① 神経や脳を落ち着かせる
腕の手のひら側には、肺・心包・心(浅)/腎(深)の経絡、手の甲側には、大腸・三焦・小腸の経絡が走っています。肺や心は呼吸器や中枢神経を司る臓腑で、大腸や小腸は現代医学的には自律神経が管轄している臓腑です。手浴をすることで気血がスムーズに流れるようになると、呼吸も深くなり、神経も落ち着きます。腸もスムーズに動きやすくなるため、老廃物の代謝や睡眠の質を上げることにつながります。
② 蒸気吸入で強制的にリラックス状態へ
手浴は鼻に直接香りが届きやすく、蒸気吸入も同時に行えるため、アロマを使った場合、香りによるリラックス効果を得やすくなります。嗅覚は他の感覚器と違って、信号が直接大脳辺縁系に到達します。ですから、好きな香りなら嗅いだ瞬間、体を強制的にリラックス状態へ導いてくれます。また、乾燥の激しいこの時期は、蒸気によって肌や粘膜を潤すことも出来るので、一石二鳥ですね。
③ 肩こりや、目の疲れなど上半身のトラブルに
肩こりや目の疲れなどに良いとされるツボが腕にはいくつか存在します。押すと少しツーンと響く感じがする痛みがあるが気持ち良い、と感じる部分を全体的にほぐしながら手浴することで、上半身のトラブル改善にもつなげることが出来ます。
④ 高血圧や神経痛を軽減させる
医療の現場では、寝たきりの患者さんに行うケアとしてよく用いられています。手の先は動静脈吻合といって動脈と静脈が結合する部分です。そこを温めることで、温まった血液が全身を循環しやすくなります。すると血圧も安定してきますし、自律神経の乱れなどから来る神経痛を軽減させることにつながります。今の時期は手の菌の繁殖を抑える効果もありますね。
⑤ 安眠効果
①~④のような理由により、安眠効果抜群!副交感神経を優位にし、眠れない夜にぜひお試しください。悪夢を見やすい方や、鮮明な夢を2~3本立てで見るような方には特にオススメです。
2:手浴のための6ステップ
① 洗面器(なければお鍋でも可)を用意し、37~41℃のお湯を張る(肘までつけることができれば◎)。
② 岩塩orはちみつ(ティースプーン1~2杯程度)にお好みの精油を3滴垂らして軽く混ぜ、お湯に溶かし入れる。
*肌の乾燥が激しい方はホホバオイルなどの植物油に精油を混ぜたものを、予め腕に塗布してから手浴されると、マッサージの際に肌への負担が軽く済みます。
③ 洗面器に腕を肘まで入れ、洗面器の底に肘をつく格好で上半身全体を覆うように頭からバスタオルなどを被ります(洗面器を覆うようにすると蒸気が逃げにくく保温効果UP)。胸の下にバスタオルを丸めたものを挟むなどして、上半身を机と洗面器の上に完全に預けてしまうと楽です。
*可能ならこの時、ホットパックなどをうなじや肩に当てておくと、上半身全体の巡りが早く整いますし、自律神経を鎮めるのにも効果的です。
④ 10~15分くらい、お湯の中で腕をゆっくりほぐします。腕の筋肉の筋に沿ってさすったり、手のひらの気持ちいいと感じる部分を指圧してみてください。
*好きな音楽をかけたり、すこし部屋の照明を落とした状態で行うとリラックス効果UP!
⑤ タオルで水を優しく拭き取ってください。オイルを使用した場合は少ししっとりした状態ですが、拭き取りすぎず軽く当てるように水分を取って頂くと、そのまま保湿されます。
⑥ 水分補給。手浴後は入浴後と同様、体の水分が失われて喉が乾きやすくなっています。コップいっぱいの白湯をゆっくり召し上がってください。
★注意
・汗が出る前にやめましょう。逆に体温が下がってしまいます。
・長時間の手浴は、体力を消耗しますのでご注意ください。
3:併せて使いたい中医アロマ
中医アロマとは、中医学の『弁証論治(べんしょうろんち)』という体質を見立てる方法を使って、その方の体質を見極め、方剤を組むように生薬の薬性理論にもとづいて、精油の性質を判断しブレンドする。そして経絡や経穴を中心にトリートメントを行う…。
つまり、中医学の数千年の臨床データに基づく理論体系に沿って、自身にピッタリの植物を選び、生薬のように人によっては苦くて飲めないものがある中で、心地よい香りにつつまれながら心と体を健やかに保つ方法なのです。
香りは、直接大脳辺縁系に信号が行くため、強制的にリラックス状態にさせてくれます。精油との相乗効果により、体だけでなく心のバランスも整えることができるのです。
では、温活におすすめの精油を、中医学的視点から解説いたします。
◆同じことをくよくよ考えてしまって眠れないタイプ
マージョラム・スイート(1滴)+ マンダリン(2滴)
【各精油の解説】
●マージョラム・スイートは、臓腑では脾・心の2つに帰経(経絡を通して作用すること)します。温性なので、お腹の冷えによる下痢や便秘、消化不良を起こしやすい方におすすめ。疲労や低血圧の改善にも◎
香りの特徴は少しスパイシーなハーブ系です。
●マンダリンは肝・脾に帰経します。温性で理気(気の巡りを整える)・補気(気を補う)作用のある精油です。冷え込んで閉ざされた心と体を温め、解きほぐしてくれます。
◆イライラとくよくよが入り交じり中途覚醒が多いタイプ
カモミール・ローマン(1滴)+ フランキンセンス(2滴)
【各精油の解説】
●カモミール・ローマンは、臓腑では肝・心・脾の3つに帰経します。平性で温めも冷やしもしないので、冷えがあるけれど少しほてりもある、という場合にも使いやすい精油です。目のアンチエイジングによく用いられる菊花という生薬とほぼ同じもので、普段PC作業が多く目を酷使している方や目のかすみ、ドライアイなどがある方にはぜひ使って頂きたい精油です。
●フランキンセンスは樹脂から抽出された精油で、涼性~温性。臓腑では脾・肝・心・肺に帰経します。呼吸を深くし、精神的な緊張をほぐす働きがあります。また、活血(かっけつ)といって、血液循環を促進させる働きがあるため、皮膚をワントーン明るくし美しく保ちます。また、免疫力を高めてくれます。
★どんなタイプにもおすすめのスペシャルブレンド
●ローズオットー(1滴)涼性/美白、ホルモンバランスを整える、女性特有の全てのトラブルに◎
●ネロリ(1滴)涼性/精神を鎮め、気の巡りを整え、細胞の成長を助けます。
●フランキンセンス(2滴)上記参照
●サンダルウッド(2滴)涼~温性/体の水分バランスを整え、精神の安定を図る。白檀です。
●ゼラニウム(2滴)涼性/不安を取り除き、PMS・月経痛・月経不順・更年期障害に◎
これらを20mlのホホバオイルに混ぜて、香水のようにお使いいただけます。髪、爪、顔、体、全身にお使いいただけます。
この冬の温活にぜひご活用ください。
この記事を監修された先生
中医アロマセラピスト車田 光穂 先生
車田 光穂(くるまだ みつほ)
登録販売者、国際中医専門員、中医アロマセラピスト、日本中医薬研究会会員店にて3年間勤務。その後イスクラ中医薬研修塾にて中医学を学び、イスクラ薬局六本木店の店長を経て独立。現在は東京・南麻布にて「漢方四月一日庭(つぼみてい)」の庭主として、漢方薬だけでなく、食事、アロマセラピーなどの養生法を適材適所で使い、心地よい生き方を提案している。