監修:楊 敏 先生(中医学講師)
こんにちは。中医学講師の楊敏です。
今回は、食欲の秋にちなんで“味”のお話。疲れたときに甘いものを食べたくなったり、寒い季節に辛いもので体を温めたり…。そんな味と体の関係について、中医学の視点からお伝えします。秋は収穫の季節で、食の楽しみもいろいろ。この機会に味の働きを知り、日々の食事でおいしく体をケアしましょう。

味覚はおいしさや安全をチェックするセンサー
食べることは生命を維持する基本。味覚はそのサポート役で、おいしさを感じて食欲を刺激したり、食べ物が安全かどうかをチェックしたりする役割があります。人が感じる「基本味」は、“塩味・甘味・苦味・酸味・旨味”の五つ。この中で、酸味は腐敗、苦味は毒につながることから、特に幼少期には苦手に感じやすい味とされています。また、“辛味”は痛覚で感じるため、科学的には味には含まれません。
〜味を感じる仕組み〜
味は、口内にある味蕾(みらい)という器官で感じ取ります。味蕾の多くは舌にありますが、上あごの奥やのどなどにも広く分布。そのため、食べものを口に入れてから飲み込むまで、私たちは味を感じていることになります。ちなみに、味蕾の数は乳児期に最も多く、その数は約1万個。その後は年齢とともに減少し、成人すると7500個ほどになります。なるほど、幼い頃の方が味に敏感なのは、このためかもしれませんね。

「五味」は「五臓」に働きかける
五行説に基づく中医学でも、味は五つに分けて捉えます。その種類は基本味と少し異なり、“甘味・辛味・酸味・苦味・鹹味(かんみ:塩からい味)”の「五味」。それぞれに体への作用があり、五臓に働きかけるとされています。
例えば、甘味は体を養い、「脾」(消化器系)に働きかける味。そのため、体が弱っているときに甘味の食材を食べると、体力の回復につながると考えます。また、辛味には体を温めて発汗させる作用があるため、冷えの解消にぴったり。このように、体調や体質に合わせて味を上手に生かせば、毎日の食事が体を整える心強い味方となるでしょう。
<五味と五臓の関係>
甘味:「脾」を養う/補益、滋養
辛味:「肺」を養う/発汗、気・血を巡らせる
酸味:「肝」を養う/収斂(しゅうれん)
苦味:「心」を養う/利尿、清熱、消炎
鹹味:「腎」を養う/軟堅、散結、瀉下
基本は「五味調和」。五つの味で五臓を養う
五味は五臓を養うもの。そのため五臓のどこかに不調があれば、対応する味を自然と欲するようになります。酸っぱいものに惹かれたり、無性に甘いものが食べたくなったり…。そんな状態に気づいたら、体からのサインと捉えて積極的に食養生を。ただし、一つの味に偏り過ぎるのはNGです。過剰になるとかえって五臓を弱らせてしまうので、適度な摂取を心がけてください。
食養生の基本は「五味調和」。五つの味をバランスよく摂って、日々の食事で五臓を養うことが大切です。
【 甘味 】五臓の「脾」(消化器系)を養う
~中医学における働き~
体力を補う(補益、滋養)、痛みを和らげる、緊張を緩める
虚弱体質、疲れたとき、体力が落ちているとき、緊張しているときなどにおすすめ。
食べ過ぎると、消化機能が落ちて「湿」(余分や水分や汚れ)が溜まり、胃もたれ、肥満、糖尿病などを招きやすくなります。
~代表的な食材~
山芋、じゃがいも、にんじん、米、もち米、そら豆、枝豆、大豆、小豆、卵、鶏肉、牛肉、なつめ、きのこ類、りんご、ぶどう、竜眼肉、はちみつ など
※砂糖は甘味の食材ですが、過食は不調の要因に。甘いお菓子は食べ過ぎないよう注意して。
【 辛味 】五臓の「肺」(呼吸器系)を養う
~中医学における働き~
気・血を巡らせる、体を温めて発汗を促す、解熱
かぜで悪寒やくしゃみがあるとき、冷え性の人などにおすすめ。
食べ過ぎると肺の気や潤いを消耗し、体に熱がこもって咳、痰、便秘などの不調を招く要因となります。激辛好きの人は食べ過ぎに気をつけて。
~代表的な食材~
しょうが、ねぎ、玉ねぎ、にら、にんにく、らっきょう、唐辛子、ミント、紅花、うこん、胡椒、山椒、大根 など
【 酸味 】五臓の「肝」(自律神経系、筋)を養う
~中医学における働き~
収斂(津液などが漏れ出ないよう抑える)、自律神経の調節
汗が多いとき、メンタルの不調(憂うつ、不安、イライラ)を感じるときなどにおすすめ。
食べ過ぎると肝と関わりの深い脾がダメージを受け、胃腸不調を起こすことがあります。
~代表的な食材~
レモン、オレンジ、みかん、ぶどう、りんご、かりん、キウイフルーツ、トマト、梅、酢、ヨーグルト など
【 苦味 】五臓の「心」(循環器系、脳神経)を養う
~中医学における働き~
利尿、清熱(体内の熱を冷ます)、消炎(炎症を鎮める)
興奮して血圧が上がったとき、動悸があるとき、不眠、夢が多いときなどにおすすめ。
食べ過ぎると体が冷えたり、心と関わりの深い肺を消耗してかぜを引きやすくなったりします。
~代表的な食材~
苦瓜、セロリ、ピーマン、パセリ、たけのこ、銀杏、レバー、蓮子芯、ゆり根、アロエ、緑茶、コーヒー、菊花 など
【 鹹味 】五臓の「腎」(泌尿器系、ホルモン系、骨格系)を養う
~中医学における働き~
軟堅(堅いものを軟らかくする)、散結(塊をほぐす)、瀉下(便通を起こす)
骨粗しょう症、腰痛、不妊、便秘が気になるときなどにおすすめ。
食べ過ぎると腎の働きが弱くなり、むくみ、少尿、頻尿、腎機能障害、高血圧などを招くことがあります。
~代表的な食材~
えび、たこ、いか、牡蠣、あわび、すっぽん、あさり、蛤、くらげ、海藻類、豚肉、塩、みそ、しょうゆ など

五臓と五味の相関図
この記事を監修された先生

中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。