監修:楊 敏 先生(中医学講師)
こんにちは。中医学講師の楊敏です。
仕事を持つ女性が増え、ライフスタイルも多様化する中、近年は晩婚化・晩産化が進んでいるとされています。人生の選択肢が増えるのはとても良いことですが、年齢が高くなると、いざ子どもを望んだときに妊娠しにくくなってしまう傾向も。「今すぐではないけれど、いつかは子どもを」。そう考えている人は、将来のためにも今からしっかりケアをして、“妊娠しやすい体”づくりを心がけましょう。

どうしたら“妊娠しやすい体”になる?
“妊娠しやすい体”とは、シンプルに考えると“心身ともに健康”ということ。体全体が元気で健やかに働いていれば、子宮や卵巣なども良い状態が保たれます。その結果、月経や排卵も順調に起こり、自然と妊娠しやすい人になるのです。
こうした健やか体質を保つためには、栄養バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス解消など、生活習慣を整えることが基本に。忙しい日常ではついおろそかになりがちなので、しっかり意識して生活を整えていきましょう。その上で、中医学では妊娠に影響する「気」(エネルギー)・「血」・「精」(生命エネルギーの源)に注目し、より妊娠しやすい体づくりを目指していきます。

「気・血・精」が妊娠力アップのカギ
中医学には「女子は血を持って本となす」という考え方があります。これは、女性の健康の基本は「血」にあるということ。妊娠と関わる子宮、卵巣、女性ホルモンなどの働きも、体内の血が充実していることで健やかに保たれます。また、血の生成と関わる「気」や「精」が充実していることも、妊娠力を高めるカギに。さらに、気・血・精は単に充実しているだけでなく、体内をスムーズに巡り、滞りなく機能していることが大切です。
<気・血・精の働き>
気:体のエネルギー。血を生じ、巡らせる
血:月経の基本。体に栄養や潤いを与える
精:生命エネルギーの源。精血同源とされ、精と血は互いを補い合っている
一方、臓腑では、気血を生み出す「脾胃」(胃腸)、精を蓄える「腎」、血を貯蔵し、気血の巡りをコントロールする「肝」の働きがポイント。これらの臓腑が健やかに機能していれば、気・血・精は良い状態が保たれ、妊娠しやすい体質につながります。
〜将来の妊娠に備えて〜 不調を整える体質ケア
なにかと忙しい現代の生活では、過労、ストレス、栄養バランスの乱れなどを招きがちに。気・血・精の不足や停滞も起こりやすいので、気になる症状があれば積極的に改善していきましょう。
血虚タイプ(貧血気味)
偏った食生活、過度なダイエット、以前の月経量がかなり多かったなどの影響で、「血」が不足しているタイプ。食生活を整え、バランスよく栄養を摂って、血をしっかり養いましょう。
<気になる症状>
立ちくらみ、めまい、動悸、月経量やおりものが少ない、しくしくと痛む生理痛、目の疲れ、乾燥肌、爪がもろく割れやすい、手足の冷え、舌の色が淡く舌苔が少ない
<血を養う食材>
女性は月経で血を消耗します。特に症状がない人も、血を養う食材を積極的に摂りましょう。
レバー、ほうれん草、小松菜、金針菜、牡蠣、ひじき、卵、鶏肉、羊肉、牛肉、スペアリブ、まぐろ、ブルーベリー、いちご、レーズン、プルーン、ざくろ、なつめ、竜眼肉、黒砂糖 など
〜おすすめ料理〜
ほうれん草と卵の炒めもの
脾気虚タイプ(脾胃が弱い)
不規則な食生活、栄養バランスの偏り、過労、もともとの胃腸虚弱などで、「脾胃」(胃腸)の働きが落ちているタイプ。脾胃は冷えに弱いので、飲食は“温かいもの”を心がけて。食生活を整えてバランスよく栄養を摂り、脾胃の元気を回復させましょう。
<気になる症状>
疲れやすい、元気がない、痩せ気味、胃痛、胃もたれ、食が細い、軟便・下痢、月経量が少ない、しくしくと痛む生理痛、舌の色が淡く腫れぼったい
<脾胃を養う食材>
長芋、じゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、にんじん、キャベツ、えのき、しめじ、大豆、卵、鶏肉、牛肉、すずき、かつお、りんご、なつめ、蓮の実 など
〜おすすめ料理〜
かぼちゃ、にんじん、鶏肉の煮物
腎精不足タイプ(生殖機能やホルモン系が弱い)
過労、睡眠不足などで「腎」が弱くなり、「精」が不足しているタイプ。精は生殖機能と密接に関わるため、不妊を招きやすくなります。あまりがんばりすぎず、十分休息を取って腎の働きを守りましょう。
<気になる症状>
疲れが取れない、腰痛(特に月経中)、足腰がだるい、月経量やおりものが少ない、性欲の低下、耳鳴り、冷え、むくみ、頻尿、舌の色が淡く腫れぼったい
<腎精を養う食材>
長芋、大和芋、黒豆、そらまめ、枝豆、しいたけ、舞茸、えび、うなぎ、ほたて、卵、豚肉、羊肉、鶏肉、すっぽん、牛乳、豆乳、黒ごま、栗、くるみ、松の実、枸杞の実 など
〜おすすめ料理〜
枸杞の実、なつめ、長芋、しいたけ入り豚のスペアリブのスープ
☆骨付き鶏肉でもOK
肝鬱気滞・瘀血(自律神経が乱れ、気血の巡りが悪い)
過剰なストレスなどで「肝」がダメージを受け、気血の巡りが停滞しているタイプ。自律神経が乱れがちなので、なるべくストレスを溜めず、気持ちを穏やかに保つことを心がけましょう。
<気になる症状>
憂うつ、不安、イライラ、PMS、月経不順、月経痛が強い、月経の色が暗く血塊が多い、肩こり、頭痛、冷えのぼせ、胃・お腹の張り、便秘・下痢、舌に瘀斑点がある、舌裏の静脈が太い
<気血を巡らせる食材>
気を巡らせる:春菊、セロリ、柑橘類、いか、たこ、あさり、しじみ、ハーブ類 など
血流を促す:しょうが、玉ねぎ、にら、なす、黒きくらげ、青魚、山楂子、シナモン、黒酢 など
〜おすすめ料理〜
いか、セロリ、玉ねぎ、黒きくらげの炒めもの
暮らしのケア
・食事は健康の基本。暴飲暴食や無理なダイエットはせず、バランスよく栄養を摂って。
・冷えは脾胃や腎のダメージになるため、温かい飲食、服装を心がけて。月経中は、特に意識して冷えから体を守りましょう。
・過労や睡眠不足は、気血や腎の消耗につながります。日頃からきちんと休息を取り、特に月経中は自分をいたわる気持ちで早めの就寝を。
・ジョギング、ヨガ、ピラティスなど、適度な運動を習慣に。ストレス解消や血行促進につながります。ただし、月経中は無理をせずに。
・趣味を楽しんだり、休日に出かけたり。日頃のストレスを上手に発散させましょう。
<妊娠力アップにおすすめのツボ>
・三陰交(さんいんこう):内くるぶしの頂点から指4本分上の骨の後ろ
・関元(かんげん):おへそから指4本分下

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この記事を監修された先生

中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。