監修:楊 敏 先生(中医学講師)
こんにちは。中医学講師の楊敏です。
生理ではないタイミングで起こる「不正出血」の症状。婦人科の受診理由では生理不順やおりものの異常などと並んで多いとされ、女性にとっては身近なトラブルといえます。病気が原因となっていることも多いので、症状に気づいたらまず病院の受診を。合わせてセルフケアで体質を整え、不正出血の起こりにくい体づくりを心がけましょう。

不正出血の原因や症状はさまざま
「不正出血」は、生理以外で起こる子宮からの出血のこと。多量の鮮血が出る場合はもちろん、下着に少量の血が付いたり、血が混ざった茶色いおりものが出たりする程度でも不正出血といいます。原因となるのは子宮の病気やホルモンの異常などさまざまで、中には特に心配のない出血もあります。
<不正出血の原因と種類>
● 器質性出血
子宮や卵巣、膣などの病気によって起こる出血。子宮頸がん、子宮体がん、子宮筋腫、子宮内膜症、膣炎、子宮頚管ポリープなどが主な原因となります。閉経後に不正出血がある場合は、特に注意が必要です。
● 機能性出血
主にホルモンバランスの乱れによって起こる出血で、思春期や更年期に多くみられます。症状には個人差があり、ダラダラと出血が続くケース、生理前に少量の出血が続くケースなどさまざまです。
そのほか、排卵期に起こる少量の出血(中間出血)、妊娠に関わる出血などもあります。
〜不正出血のチェックポイント〜
一つでも当てはまるものがあれば、不正出血と考えられます。
☐ 生理の時期ではないのに出血がある(すぐに収まったり、何度も繰り返したり)
☐ 痛みや痒みを伴う出血がある
☐ 何度も出血が起こる
☐ 閉経しているのに出血がある
☐ 茶色いおりものが出る
不正出血が起こりやすい体質は?
中医学では不正出血を「崩漏(ほうろう)※」といい、その原因は体内の不調にもあると考えます。主な要因となるのは「陰虚火旺」「心脾両虚」「肝鬱化火」「瘀血阻絡」の体質で、それぞれの症状には下表のような特徴があります。
※「崩」は多量の出血、「漏」はダラダラ続く少量の出血
子宮などの病気が直接的な原因となっている場合も、こうした体質によって出血が起こりやすくなったり、症状が重くなったりすることも。当てはまる体質があれば積極的に改善し、症状を緩和していきましょう。
体質ケアで不正出血を起こしにくく
体質はいくつかのタイプが重なっていることもあります。気になる症状を参考に、自分の体質をチェックしてみましょう。
陰虚火旺(潤い不足による熱)
過労、加齢(更年期)などの影響で「腎陰」(全身の潤いの源)が不足し、熱をうまく冷ませないタイプ。過剰な熱が血管のダメージとなり出血しやすくなるため、体内の熱を冷ますことを心がけて。
<症状>
不正出血の症状:量は不定、粘りがある鮮血(または茶褐色)
その他の症状:月経周期が短い、ほてり、のぼせ、めまい、寝汗、足腰がだるい、便の乾燥、舌が紅くひび割れがある、舌苔が少ない
<おすすめ食材>
体内の過剰な熱を冷ます:きゅうり、トマト、れんこん、ほうれん草、へちま、ズッキーニ、豆腐、牛乳、豆乳、豚肉、すっぽん、なずな、桑の実 など
〜おすすめメニュー〜
ズッキーニとトマトのオリーブオイル炒め
心脾両虚(心・脾胃の虚弱)
血と深く関わる「心(しん)」、「気」(エネルギー)を生み出す「脾胃」(胃腸)が弱いタイプ。気の固摂作用(液体が漏れ出ないようにする働き)が不足して出血しやすくなるため、気・血をしっかり養うことが大切です。
<症状>
不正出血の症状:量は不定、サラサラで色が淡い
その他の症状:疲労感、倦怠感、動悸、胃もたれ、食欲不振、軟便・下痢、むくみ、睡眠が浅い、舌が腫れぼったい、舌苔が薄く白い
<おすすめ食材>
脾胃を元気にして、気・血を養う:長芋、大和芋、キャベツ、にんじん、小松菜、ほうれん草、大豆製品、金針菜、きのこ類、鶏肉、牡蠣、うなぎ、卵、りんご、なつめ、蓮肉 など
〜おすすめメニュー〜
にんじん、しいたけ、鶏肉の煮物(蓮肉入り)
蓮肉
肝鬱化火(気の停滞による熱)
ストレスなどで「気」の巡りが滞り、熱がこもっているタイプ。過剰な熱で血管がダメージを受け、出血につながります。ストレスをこまめに解消して気を巡らせ、体の熱を冷ましましょう。
<症状>
不正出血の症状:量が多い、臭いと粘りのある鮮血
その他の症状:月経不順、PMS、イライラ、怒りっぽい、口の苦み・乾燥、口臭、便秘、尿の色が濃い、不眠、夢が多い、舌の色が紅く舌苔が黄色い
<おすすめ食材>
気を巡らせ、熱を冷ます:セロリ、苦瓜、なす、空芯菜、せり、なずな、いか、たこ、あさり、くちなし、オレンジ、ミント、アロエ など
〜おすすめメニュー〜
セロリとピーマンとなすの炒めもの(パクチー添え)
瘀血阻絡(血行不良による詰まり)
ドロドロ血などで血流が滞り、詰まりがちな血管から血が漏れやすくなると考えます。食生活の改善、冷え予防などで、サラサラ血流を保つよう心がけましょう。
<気になる症状>
不正出血の症状:量は不定、色は暗く血塊があることも
その他の症状:強い月経痛、経血に血塊が多い、下肢静脈瘤、慢性的な肩こり・頭痛、舌の色が暗く瘀斑・瘀点がある、舌裏の静脈が太い
<おすすめ食材>
血流を促し、詰まりを解消する:なす、青梗菜、菜の花、黒きくらげ、いわし、さんま、山楂子、シナモン、サフラン など
〜おすすめメニュー〜
なすと黒きくらげと玉ねぎの炒めもの
暮らしのケア
・食生活を整えて。暴飲暴食、過度な飲酒は避け、冷たいものや刺激物は控えめに。
・過労や睡眠不足に注意。休息を十分取って心身を健やかに保ちましょう。
・感染症を防ぐためにも、デリケートゾーンは清潔に。
・日常生活でこまめに体を動かし、血行を促しましょう。
・おしゃべり、趣味、運動など、自分に合った方法を見つけてストレス発散を。
・リラクゼーションを取り入れて。ヨガ、深呼吸、アロマテラピーなどがおすすめです。

不正出血の気になるポイントQ&A
Q. 不正出血がどのくらい続いたら病院に行くべき?
→ A. 自己判断は禁物。生理以外で気になる出血があったら、早めに病院を受診しましょう。
Q. 不正出血と性行為の関係は?
→ A. 性行為後に出血がある場合は、外陰部の傷、子宮頸がん、性感染症などが考えられます。
Q. 不正出血と生理の違い
→ A. 月経はホルモン分泌によって起こる周期的(通常25~38日ごと)な出血で、3〜7日前後続きます。不正出血はホルモンバランスの乱れや病気によって周期に関係なく起こり、期間や量もさまざまです。
Q. 不正出血と更年期の関係
→ A. 更年期に入ると女性ホルモンの分泌量が急減り、ホルモンバランスが乱れて不正出血が起こりやすくなります。
この記事を監修された先生

中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。