監修:楊 敏 先生(中医学講師)
女性にとって、生理は毎月やってくる身近なもの。とはいえ、その状態を人と共有することはあまりなく、“基準は自分”になっている人も多いのではないでしょうか。このコラムでは、今回と次回の2回に渡って“生理のこと”を学びます。「基礎編」でお伝えするのは、正常な生理について。こちらを基準に、まずは自分の生理の状態をチェックしてみましょう。
「生理」(月経)とは
女性の体では、性ホルモンの影響を受け、約1か月に1回の排卵に合わせ、受精卵を迎えるために子宮内膜が厚くなります。妊娠すると、このふかふかな内膜が赤ちゃんの育つベッドに。一方、妊娠しなければ厚い内膜は不要になるため、剥がれて体外に排出されます。これが「生理」(月経)で、受精卵が着床しやすいよう、女性の体は毎月新しい内膜のベッドを用意しているのです。
生理は妊娠のためだけのものと思われがちですが、妊娠を希望しない女性にとっても、生理はとても重要。それは、生理を整えることはホルモンバランスを適切に保つことでもあり、身体的にも精神的にも健康でいるためのポイントとなるからです。
量が多かったり少なかったり、周期が不安定だったり……。そんな不調を感じたら、きちんとケアをして正常な生理を保つよう心がけましょう。
初潮を迎えるのはいつごろ?
平均的な初潮の年齢 :10~14歳ごろ
個人差はありますが、8〜9歳で初潮がきたり、16歳を過ぎてもなかったりする場合は、子宮や卵巣、ホルモン分泌などに問題がある場合があります。
中医学では、女性の体は“7の倍数”の年齢で節目を迎えるとされていて、14歳は初潮を迎える時期。この7年周期は「腎」(生命力や生殖機能を支える臓腑)の充実や衰えに伴って訪れるため、初潮の年齢が早すぎても遅すぎても、腎が弱い状態(腎虚)と考えます。
生理の「周期」や「期間」どれくらいが普通?
正常な生理周期 :25〜38日
この周期は、生理の始まった日から次の生理が始まるまでの日数。これより短かったり長かったりする状態が続いている場合は、月経周期異常とされています。
● 頻発月経:生理周期が24日以内(早い)
ホルモンバランスの乱れ、卵巣機能の低下などの原因が考えられます。
中医学で考える体質は…
・経血が鮮紅色で量が多い → 体内の過剰な熱
・経血の色が淡く量が少ない → 「気」(エネルギー)の不足
● 希発月経:生理周期が40日以上(遅い)
ホルモンバランスの乱れ、甲状腺や卵巣の病気による排卵障害などの原因が考えられます。
中医学で考える体質は…
・経血が黒っぽく、月経痛がある → 体の冷え、気・血の停滞
・経血の色が淡く量が少ない → 気・血の不足
正常な生理期間 :3〜7日以内(平均的には5日程度)
生理が2日以内に終わるような場合は「過短月経」、反対に生理が8日以上続く場合は「過長月経」となります。
● 過短月経:生理が2日以内で終わる
無排卵、子宮の病気、甲状腺ホルモンの分泌異常などの原因が考えられます。
中医学で考える体質は…
10~30代前半で4日以内、40代で2日以内くらいで生理が終わり、
・経血の黒っぽく血塊がある、生理痛が強い → 気・血の停滞
・10~30代前半で、経血の色が淡く量が少ない → 血の不足
・40代で、経血の色が淡く量が少ない → 腎陽の不足
・40代で、経血が鮮紅色で量が少ない → 腎陰の不足
● 過長月経:生理が8日以上続く
ホルモンバランスの乱れ、無排卵、子宮の病気、更年期などの原因が考えられます。
中医学で考える体質は…
・経血の色が淡くサラッとしている → 気の不足
・経血が鮮紅色で粘りがあり、量が多い → 体内の過剰な熱
経血の「量」や「色」の違いは?
正常な経血量:20〜140ml程度(理想としては50~100ml)
量の判断は難しいものですが、ナプキンが1〜2時間しかもたない、日中でも夜用ナプキンが必要といった場合は、量が多すぎると考えられます。
● 過少月経:経血量が20ml以下
あまり心配ありませんが(特に初潮後、閉経前)、成熟期の場合は女性ホルモンの分泌異常などの可能性があります。
中医学で考える体質は…
・経血の色が淡くサラッとしている → 気・血の不足
・経血の黒っぽく血塊がある、生理痛が強い → 血の停滞
● 過多月経:経血量が140ml以上
子宮や卵巣の病気、ホルモンバランスの乱れなどの原因が考えられます。
中医学で考える体質は…
・経血が鮮紅色またな赤紫色で粘りがある → 体内の過剰な熱
・経血の色が淡くサラッとしている → 気の不足
正常な経血の色:やや暗めな紅色
経血には剥がれた子宮内膜が含まれるため、やや暗めな色に。生理の後半は経血が時間をかけて排出されるため、酸化して黒っぽく見えることもあります。
中医学で考える体質は…
・淡紅色、淡茶褐色 → 気や血の不足、腎陽の不足
・鮮紅色、深紅色 → 体内の過剰な熱
・深い茶褐色 → 気・血の停滞
・黒紫色 → 血の停滞、冷え
※画像の「色」はおおよそのイメージです
「生理痛」や「血塊」ってみんなあるの?
正常な状態 :生理痛も血塊もない
下腹部が少し重く感じたり、経血に少し粘りがあったりする程度で、痛みや血塊はない状態が正常です。
中医学で考える体質は…
・下腹部がシクシク痛み、血塊はない → 気や血の不足、腎の虚弱
・お腹が冷えて痛みが強く、血塊がある → 冷えによる血の停滞
・刺すような強い痛みで、血塊が多い → 血の停滞
・下腹部が張って痛みがあり、ガスが多い → 気の停滞
・腰痛や腰の重だるさがある → 腎の虚弱
・生理痛に加え、腹部に熱感がある → 体内の過剰な熱
また、イライラ、憂うつ、不安感、乳房脹痛、肩こり、頭痛といった「PMS」(月経前症候群)の不調には、気の停滞が影響していると考えます。
あなたの生理はどうでしたか?正常の範囲を外れている場合は体になにかしらのトラブルがある可能性も考えられるので、気になる人は一度婦人科の受診を。また、生理の状態を整え、生理痛やPMSの症状を緩和することは、中医学の得意分野でもあります。次回は体質別のセルフケアについてご紹介するので、不調が気になる人はぜひ参考にしてみてください。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。