監修:楊 敏 先生(中医学講師)
“お腹の張り”は、食べ過ぎたり飲み過ぎたりしたときにも感じるとても身近な症状です。その分、がまんしてやり過ごすことも多いと思いますが、お腹の不快感や痛みが続くのはつらいもの。放っておくと胃腸のトラブルにつながることもあるので、きちんと対処をしてお腹の張りにくいスッキリ体質を目指しましょう。
お腹の張りは“ガス溜まり”の状態
お腹の張りは、医学的には「腹部膨満感」と呼ばれる症状。腹部に不快感や痛み、重苦しさなどを感じ、多くの場合は腸内にガスが溜まることで起こります。その要因となるのは、主に次の二つ。
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・口から飲み込む空気の増加
食事をしたりつばを飲んだりするときに、人は自然と空気を飲み込んでいます。早食いや緊張などでその量が増えると、お腹に空気が溜まって張りを感じるように。
・腸内ガスの過剰な発生
食べ物が分解される過程で、腸内にはガスが発生します。高脂質の食事や食物繊維の取り過ぎ、消化不良などでこのガスが大量に発生すると、お腹にガスが溜まるようになります。
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このほか、ストレスで腸の働きが落ち、ガスの排出機能が低下する、便秘で腸内に便やガスが溜まる、といったこともお腹が張る要因に。また、女性はホルモンの影響で月経前に腸の働きが低下しやすく、便秘やお腹の張りが起こることもあります。
「気」の不足・停滞がお腹の張りを招く
中医学では、お腹の張りは体内の「気」(エネルギー)の状態と深く関わっていると考えます。“元気”“気力”などの言葉があるように、気は生命活動の根本を支える大切なエネルギー。気が充実して体内をスムーズに巡っていれば、そのエネルギーを受けて五臓六腑も健やかに働きます。反対に、気が不足したり(気虚)、気の巡りが滞ったり(気滞)すると、臓腑の機能にも影響してさまざまな不調が起こるようなります。
お腹の張りは、こうした気虚・気滞体質の人に起こりやすい症状。「脾胃」(胃腸)は、中に入ったものが“留まらず流れている状態”が良いとされています。ところが、気の不足や停滞で脾胃の働きが弱くなると、消化機能も落ちて食べ物が滞った状態に。その結果、胃が重く、ガスが溜まりがちになって、お腹の張りが起こるようになるのです。
溜まってしまったお腹のガスは、おならやゲップで排出されます。人前ではついがまんしがちですが、つらい症状を軽くするためにも、なるべくきちんと出すことを心がけましょう。
ストレス&胃腸ケアでお腹スッキリ!
お腹の張りの解消は、気の停滞や不足を解消し、脾胃の働きを良くすることがポイント。2つの体質が混合している人も多いので、症状からチェックしてみて。
※お腹の張りは病気が原因で起こることもあります。症状が続いたり、食べ過ぎでもないのに急にお腹の張りや痛みを感じたりする場合は、早めに医師の診察を受けてください。
ストレス過剰の「気滞」タイプ
過剰なストレスなどで気の巡りが停滞し、体内に“詰まり”が起こるタイプ。胃腸にガスが溜まり、便秘もしやすくなって、お腹が張るようになります。PMS(月経前症候群)でお腹が張りやすい人も、このタイプに多いので参考に。日々のストレスをこまめに解消し、気をスムーズに巡らせることを意識しましょう。
<気になる症状>
イライラ、憂うつ、不安感、便秘気味(または便秘と下痢が交互に)、口の苦み、目の充血、食欲にムラがある、ストレスで過食をしがち、寝つきが悪い、悪夢が多い
<おすすめ食材>
香り・苦味・酸味の食材で気を巡らせて
春菊、三つ葉、セロリ、苦瓜、大根、かぶ、あさり、しじみ、いか、たこ、柑橘類、ぶとう、梅、ヨーグルト、ジャスミン、ミント、ラベンダー、カモミール、うこん、田七、くちなし など
〜おすすめメニュー〜
・大根、にんじん、鶏ささみのサラダ、パセリ添え
・みかん入りヨーグルト(お好みの柑橘類でOK)
・ジャスミンティー
胃腸が弱い「気虚」タイプ
体内の気が足りず、エネルギー不足で脾胃の働きが弱いタイプ。消化機能が落ちて食べ物が停滞し、ガスが溜まりやすくなります。このタイプは食も細くなりがちですが、しっかり栄養を取らないと気を十分に生み出すことができません。消化が良く栄養のあるものをきちんと取り、脾胃の元気を取り戻すことを心がけましょう。
<気になる症状>
疲労感、倦怠感、食欲不振、胃が重苦しい、胃痛、腹痛、下痢・軟便気味、冷えで胃腸症状が出やすい、顔色が白っぽい、痩せ気味、かぜを引きやすい、舌の色が淡く両側に歯痕がある
<おすすめ食材>
脾胃を健やかに整え、気を養う食材を
玄米(柔らかめに炊いて)、山芋、長芋、かぼちゃ、ピーマン、にんじん、キャベツ、きのこ類、しょうが、ねぎ、玉ねぎ、牛肉、鶏肉、卵、納豆、大豆、りんご、シナモン、八角、棗 など
〜おすすめメニュー〜
・長芋入りのビーフのカレー
・茶碗蒸し
・シナモンティー
暮らしのポイント
・食生活を整えることは基本中の基本! 暴飲暴食をしない、アルコールはほどほど、栄養バランスの良い食事、腹八分目(特に夕食)を心がけて。
・食べ過ぎたときのお助け食材は、消化を助ける「大根」。おろしやサラダなど生で食べるのがおすすめです。
・腸内環境を整える発酵食品(ヨーグルト、納豆など)を積極的に。
・冷えは脾胃の大敵。善玉菌の活動も低下するので、冷たい飲食はなるべく控えましょう。
・ジョギングや散歩などの有酸素運動で、腸のぜん動運動を促して。
・ハーブティーや柑橘類を積極的に取り、香りの効果でストレス解消を。
<おすすめのツボ>
お腹の張りの軽減、予防に。
中脘(ちゅうかん):みぞおちとおへそを結んだ線の中間
足三里(あしさんり):膝の皿の下・外側の窪みから指4本分下
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この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。