監修:楊 紅娜(中医学講師)
楊紅娜先生のBeauty & Relax Vol.17
ものごとを考え込んだり、思い悩んでしまったり……。そんなときに、食欲がない、胃がキリキリするといった胃腸のトラブルに悩まされた経験はありませんか?「五臓と五志」第4回目は、こうした“考え込む”タイプと「脾」の関係をテーマにお話します。過剰に心配したり考え過ぎたりしてしまう人は、ぜひ参考にしてください。
考え過ぎ、悩み過ぎは「脾」のダメージに
「脾」は、五神の精神活動(魂・神・意・魄・志)では「意(思想や観点)」、五志の感情(怒・喜・思・悲・恐)では「思」を宿しています。感情の思は精神活動の思考や思慮と似ているようですが、こちらは“思う、考える、心配する(憂う)”といった感情的な思で、「憂思(ゆうし)」と表されることもあります。
中医学では「思則気結(思えばすなわち気結ぶ)」とされ、過度に考えたり心配したりすると、体内を巡る「気(エネルギー)」が停滞すると考えます。その結果、消化吸収を担う脾の働きが低下して、食欲不振、お腹の張り・痛み、軟便・下痢といった不調が起こるようになるのです。
反対に、脾が弱っていると「思」の感情をうまくコントロールできず、必要以上に思い悩んだり心配し過ぎたりしてしまうことも。悩みや心配ごとを抱えていると、それがまた脾のダメージになって胃腸不調が起こる……。そんな悪循環を招いてしまうことも多いので、“考え過ぎかも”と感じたら意識して脾胃をケアするよう心がけてみてください。
心身の健康を支えるのは、元気な「脾胃」の働き
「脾胃(胃腸)」は飲食物を消化・吸収・代謝し、体内の「気(エネルギー)」「血」を生み出す臓腑。気血は心身のエネルギーや栄養となるため、脾胃がしっかり機能して気血が充実していれば、体も健康で免疫力が高く、こころも元気な状態が保たれます。
こうした働きを担う脾は、五行説では「土」にあたる臓腑とされています。これは、脾胃が他の四臓(肝・心・肺・腎)に気血を供給し、養っているということ。つまり、体の働きの基本を支えている、ということですね。そのため、元気な心身を保つためには常に脾胃を守るよう心がけ、働きの良い状態を保つことが大切なのです。
中医学では、脾胃の重要な働きは千年以上もの昔から認識されていて、古典の医学書にも次のように説かれています。
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『素問・玉機真臓論』より
脾脈者、土也、孤臓以灌四旁者也(脾は土であり、唯一の尊い臓腑で、他の四臓に気血を供給する)
『素問・太陰陽明論』より
脾者土也、治中央、常以四時長四臓〜不得独主於時也(脾は土であり、中央を治めている。常に四季を通じて四臓を盛んにさせている。特に一つの季節のみを支配するということはない)
『金匱要略』より
四季脾旺不受邪(一年を通して脾胃がよく働けば、邪気に侵されることはない)
「脾胃」にやさしい“食の基本”
私たちが食べるもの、飲むものは、脾胃に直接影響します。だからこそ、日々のちょっとした気配りが大切。脾胃にやさしい食生活を心がけ、こころと体の元気を保ちましょう。
食養生の基本
・和食を中心に
中国では「一方水土養一方人(地域によって、その土地ならでは人が育つ)」といわれ、これは食にも当てはまること。日本に暮らしている人は、和食中心の食事を心がけましょう。
・腹八分目
お腹いっぱい!と感じるのは、ちょっと食べ過ぎの状態。脾胃の消化機能に負担がかかるので、“もう少し食べたいな”くらいの八分目を意識しましょう。
・バランスの良い食事
“野菜たっぷり”を意識すると、バランスを保ちやすくなります。
考えすぎない!元気な「脾胃」で気持ちをおおらかに。
脾胃が弱って気血を十分生み出せないと、エネルギー不足でこころの元気も失われてしまいます。過剰に考え込んだり心配したり、といった不調も招きやすくなるので、日々の食養生で脾胃の元気を取り戻しましょう。
基本の養生 〜脾気虚の改善〜
脾胃が弱い人は「脾気虚(脾気の不足)」が基本にあります。脾気虚が進行すると、脾の陽気不足や潤い不足、湿の停滞といった不調を招くこともあるので、症状を参考に自分の体質をチェックしてみてください。
【脾気虚の症状】
疲れやすい、汗をかきやすい、かぜをひきやすい、胃もたれ、食欲不振、軟便・下痢
【養生ポイント】
・体全体を温める(入浴、温かい服装、適度な運動などを)。
・脾胃は冷えが苦手。冷たい飲食、生ものなどは控えましょう。
・体を冷やさない「平性」「温性」の食材を基本に。
【食養生】
おすすめ食材
白米、大豆製品、牛肉、うなぎ、いも類、ねぎ、キャベツ、山芋、かぼちゃ、いんげん豆、きのこ類 など
避けたいもの
冷たいもの、生もの、脂っこいもの、甘いもの、刺激の強いもの、アルコール
【ツボ】
脾兪(ひゆ):肝兪(肝臓の背部。肩甲骨の下あたり)から指3本下
足三里(あしさんり):膝頭の外側の下にできるくぼみから指4本下
この記事を監修された先生
中医学講師楊 紅娜
楊紅娜(よう こうな)中医学講師。 登録販売者。鍼灸師。 2006年遼寧中医薬大学修士号取得。 2006年~2016年、大連市にて精神科臨床医として10年間勤務。 「中国摂食障害の防治指南」の編集委員担当。 2016年来日。日本にて登録販売者、鍼灸師取得。