監修:楊 敏 先生(中医学講師)
「中医学」というと、少し難しいイメージを持つ人もいるかもしれません。でも、その基本は日常の暮らしに根付いたとても身近なもの。今回からお届けするシリーズ「家庭で役立つ中医学」では、日々の健康管理に役立つ中医学の養生法をご紹介します。第1回のテーマは、よくある不調の代表格ともいえる「かぜ・咳」。早めのケアで症状の悪化を防ぐことができるので、ぜひ参考にしてください。
家庭で実践できる身近な中医学
中医学の歴史は古く、その始まりは二千年以上もの昔。古代中国の宮廷には皇帝や貴族に仕える医師(食医、疾医、瘍医、獣医)がいて、中でも食事から健康を支える「食医」はとても高い地位にありました。この食医こそが、現代に続く中医学の礎となっています。食医の仕事は、日常の健康管理のために食材を組み合わせ、調理をすること。中医学では “命は食にあり、食を誤れば病にいたり、正しければ病は自ずと癒える”とされ、“日々の食事こそ良薬”と考えます。だからこそ「食養生」を重視するのですが、この食医の仕事、現代では日常の食事をつくる家庭でこそ、効果を発揮できるのです。また、中医学の診察は“人をみる”ことが基本で、次の「四診」で健康状態を把握していきます。
[中医学の四診]
望診:みる。心身の状態や顔色などを観察する。
聞診:問う。自覚症状や生活習慣などを聞く。
問診:聴く・嗅ぐ。声や音を聴いたり、においを嗅いだりする。
切診:触れる。熱を感じたり、脈をとったりする。
特別な機器などを必要としないこの診察もまた、家庭で実践できることですよね。
“家庭診察”はここがポイント
中医学では、体にはさまざまな臓腑と関わる「経絡(気・血の通り道)」が巡っていて、それが繋がりあって体全体をかたちづくっていると考えます。そのため、体のどこかに異常があれば、必ず顔色や肌、舌、声などに症状として現れるように。こうした変化を見逃さないよう、自分のこと、家族の様子を日頃から細かく観察することが“家庭診察”の第一歩。不調の兆しが早く見つかれば、「未病(病気になる一歩手前の状態)」を治して病気を予防することにもつながります。
観察には五感をフル活用し、顔色(表1参照)、体格(痩せた、太った)、動作、皮膚や髪の状態、舌の状態(『舌診』参照)などをチェック。さらに、話し声、咳の音、分泌物(鼻水や涙、汗)、排泄物(尿、便)などの状態も細かく観察しましょう。また、体調をこまめに聴いたり、皮膚や患部に触れて状態を確認したりすることも大切です。
身近な不調「かぜ・咳」の対処法
かぜは初期の段階で対処をすれば、治りも早いもの。症状にあった適切なケアで、かぜの悪化、長期化を防ぎましょう。
風寒のかぜ
ゾクゾクする寒気、顔色が青白い(表1参照)、頭痛、透明な鼻水や白っぽい痰(表2参照)、咳などの症状が特徴。体をしっかり温めて、体内の冷え(寒邪)を早めに追い払いましょう。
【 おすすめ食材 】
しょうが、長ねぎ、みょうが、大葉、小松菜、にんじん、杏、コリアンダー、シナモン、棗、りんご、みかん、茴香、山椒、胡椒 など
〜おすすめメニュー〜
・しょうがたっぷりのたまご粥
・シナモンと生姜入りの葛湯
◎咳が長引く時は……
陳皮、金柑、花梨なども積極的に。“しょうが、ねぎ、大根の鍋”“金柑入り杏仁豆腐”などがおすすめです。
風熱のかぜ
発熱、のどの痛み、咳、頭痛、顔色が紅い、発汗、鼻水や痰が黄色っぽくやや粘りがある(表2参照)、舌先が紅いなどの症状が特徴。体内の過剰な熱を冷ますことを心がけて。
【 おすすめ食材 】
きゅうり、苦瓜、すいか、トマト、レタス、大根、ごぼう、豆腐、緑豆、、葛、菊花、ミント、どくだみ、梨、いちご など
〜おすすめメニュー〜
・春雨、レタス、トマトのサラダ
・すいか、きゅうり、にんじんのスムージー
◎咳が長引く時は……
れんこん、びわ、オレンジ、柿なども積極的に。“陳皮入りどくだみ茶”“大根とれんこんのサラダ”などがおすすめです。
暑湿のかぜ
胃のムカつき、吐き気、腹痛、下痢、発熱、悪寒、舌苔がベタつくなどの症状が現れる胃腸型かぜで、夏に多く見られます。溜まった「湿(余分な水分や汚れ)」を取り除き、体をすっきりさせましょう。
【 おすすめ食材 】
きゅうり、冬瓜、大葉、うど、へちま、いんげん、そら豆、枝豆、緑豆、しょうが、ねぎ、はと麦、とうもろこしの髭、陳皮(みかんの皮)、山査子、柑橘類 など
〜おすすめメニュー〜
・うど、みょうが、大葉の酢みそ和え
・陳皮、生姜入りのお茶
肺の潤い不足による咳
長引く咳、痰が少ない、微熱、頬が赤くなる、便の乾燥、寝汗、舌の色が紅く舌苔が少ないなどの症状が特徴。肺の乾燥によって起こる症状なので、体の潤いをしっかり養うことが大切です。
【 おすすめ食材 】
きゅうり、すいか、トマト、れんこん、銀杏、ゆり根、白きくらげ、オレンジ、杏、梨、枇杷、柿、はちみつ など
〜おすすめメニュー〜
・はちみつ入り、梨、れんこん、にんじんのスムージー
・白きくらげ入りの柿茶
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。