中医学を考える三者座談会「家族の幸せをまもる未病対策」 - 漢方・中医学の情報サイト|COCOKARA中医学

STUDY中医学の基礎

中医学を考える三者座談会
「家族の幸せをまもる未病対策」

2018.05.15 UPDATE

今回は、中医学が日本の医療現場で果たせる役割をテーマとした三者座談会をご紹介します。
東京有明医療大学教授の川嶋朗医師、全国の漢方相談のできる薬局薬店からなる日本中医薬研究会の乾康彦会長、イスクラ産業株式会社の陳志清中医学講師が、中医学と日本の医療について思いの丈を語り合いました。

本座談会は、朝日新聞出版『本格漢方2018』に掲載の記事を再編集したものです。

増え続ける国民医療費、日本が抱える問題と中医学

陳先生(以下、陳):川嶋先生は西洋医学と中医学を融合して診療を行われています。これからの日本で中医学が健康維持や疾病の治療に果たす役割についてお聞かせください。
川嶋先生(以下、川嶋):中医学はこの先ますます需要が増すと思います。というのは、右肩上がりになる日本の国民医療費の問題が関係しているからです。平成27年度の税収55兆~56兆円に対して、国民医療費は約42兆3000億円でした。国民医療費とは、医療機関などで保険診療の対象となる治療にかかった費用のことなので、介護費なども含めると税収を上回るほどです。医療にかかる費用が税収を上回った状態で国を運営していくには、赤字国債を出さなければならない状態ですよね。
乾会長(以下、乾):赤字国債が増え続けたら…怖いですね。
川嶋:例えば、親がお給料を全部医療費に使ってしまったとします。すると他のことに使うお金が残っていないので、子どものクレジットカードから支払って生活します。一般家庭では絶対にやらないことですが、日本は気づかずに、もしくはそれでも良いと思って、子供のクレジットカードで生活しているんです。これを改善していくためには国民医療費を減らすしかないのですが、保険診療の費用は病気になって初めて下りることになっています。つまり、国民医療費を減らす方法は病気にならないことです。しかし、病気になって初めて診療する通常の医療では、病気を未然に防ぐことができません。自覚症状はあるけれど、病気の原因がわからないという状態に対して、医療費も使えないので、何も対策を取らずに放ったらかしてしまう。まるで、病気になるのを待っているような感じ。それが医療費の増大に繋がります。
自覚症状はあるけれど病気の原因がわからない状態のことを中医学では「未病(みびょう)」と言いますね。
川嶋:そうです。未病の状態で止めれば、医療費がかからないんです。中医学には未病の概念がありますが、西洋医学にはありません。この概念こそが、日本における中医学の果たす役割だと思いますね。

川嶋朗医師(東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科教授医学博士)

「気づき」と「養生の実践」でセルフメディケーション

:最近、セルフメディケーションという言葉をよく聞くように、健康も自己責任といいますよね。中国では病気にならないための市民教育のようなものがあり、自分の健康は自分で守るという意識があります。一方、日本には漢方がありますが、川嶋先生のように理論と考え方を大事にしている先生は少ないのではないかと感じています。中医学で最も大事なのは予防や養生といったその考え方。この考え方は必ずしも医者がやるものではなく、一般の方も理解して実践できるものです。
川嶋中医学には季節ごとに、どんな生活をすればいいかといった養生法がしっかりとあって健康維持に非常に役立ちますね。
:漢方相談を行う立場としては、その考え方が中医学の大切なものの一つであると同時に、例えば冷えなどの身体のサインを見逃さないのも大切なことです。相談に来られる方へ気づきを与えてあげて、一人ひとりのお身体に合わせた相談ができるように心がけています。
:中医学を普及することは、必ずしも薬を飲んでほしいということではなく、生活習慣や考え方を理解して実行していただくことこそが中医学の普及だと思います。

体質に合ったおいしい薬膳料理で未病対策

:薬膳も中医学の考え方の一つですよね。旬に合わせた食材を使った料理で、一人ひとりの体質に合わせていることが薬膳の魅力です。薬膳をやる上で重要なのは、おいしさ。身体が今欲しているものは、本来おいしいと感じるからです。いろいろな添加物によってお腹が空いていなくても癖になって食べてしまうということもありますが…。
川嶋:中医学の薬も体質に合っていないと苦いのに、体質に合っているとおいしく感じますよね。
:飲んでおいしかったらその薬を買おうという気にもなります。
川嶋:薬膳は未病の対策になりますし、しかもおいしく食べられる。これで病気にならなかったら最高ですね。
:中医学には「医食同源(いしょくどうげん)」、「薬食同源(やくしょくどうげん)」という言葉があります。食材にはそれぞれ性質があって、味や香りもさまざま。それによって身体に対する影響も異なります。薬膳は今すごく人気がありますから、食材の性質と自分の体質を考えながら実践していただきたいですね。

乾康彦会長(日本中医薬研究会会長 国際中医専門員)

脳の差!?未病対策でみる男女の違い

川嶋:未病と言えば、男性より女性の方がちゃんと対策をとる傾向があると思います。
一同:(笑)
川嶋:これは脳の差なんですよね。男性と女性は胎生期に脳に差が生まれます。脳梁(のうりょう)という脳の真ん中にある部分が女性の方が大きいんです。そのため、女性の方が左右を繋ぐのが上手い。女性は育児のこと、仕事のこと、身体のことを同時に考えることができますが、男性はなかなか一つのことしか考えられないんですよね。だから、男性は身体に不調を感じても、仕事が一番のときにはそれに集中してしまって、病気になってから仕事どころではなくなって治療に専念するというケースが多いです。こういったことが原因で喧嘩をしてしまう夫婦がいますが、脳の違いを理解しないといけないです。女性の脳はさまざまなことを考えられるので、未病のうちに対策をとってみようという感覚を持てるんです。

:家族の健康は女性から、ですね。
川嶋:女性の方が気を配れるので、奥さんは旦那さんをみてあげます。ところが言うことを聞かないのが男性です。言うことを聞かないのですが、いよいよ病気になったときに奥さんを頼ってきます。おもしろいですよね。
:弱ってから頼りますね。強がるからね。
川嶋:相談に来られる年齢も女性の方が男性より若いです。若いときから気にしてらっしゃるからですよね。男性も女性も養生法どおりにやれば病気になんてならないだろうなと思います。と、僕が言うんですけど僕ができているかって言われるとできていません。
一同:(爆笑)
できていなくても養生や対策を知っているのと知らないのとでは全く違いますよ。知っていたらいつでも実践できますから。

次回は「冷え」をテーマにした三者座談会の模様をご紹介します。冷えに対する考え方をそれぞれ語っていただきました。5月29日(火)に公開予定です。

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