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「漢方薬は効かない」から180度変わった中医学との出会い

2016.07.19 UPDATE

SPECIALインタビュー:東京医科歯科大学 別府正志先生

東京医科歯科大学の別府正志先生は西洋医学と中医学の双方に精通され、現在は中医学を中心に診療をされています。実際の治療現場で「漢方薬」の効果を目の当たりにされたことが、中医学を本格的に勉強されるきっかけとなったそうです。今回は、別府先生に中医学の魅力についてお話を伺いました!

 

患者さんへの治療提案が半分以上抜けていることに気がつく

「インフォームドコンセント※注1」とよく言われますが、患者さんを診察しその状態を判断して、できるだけ多くの選択肢を提案できることが良い医師の条件だと思っています。中医学を知る前は治療法の選択肢に漢方はなく、選択肢に入れたとしても漢方は最後の1つでした。つまり10お示しする選択肢の内漢方は0か1だったのですが、実は中医学による選択肢も10あるということに気づいたのです。

 

※注1:医療の提供に際して、医師が病状や治療方針を分かりやすく説明し、患者の同意を得ること。複数の選択肢から選択できればより良い。

 

以前より漢方に興味はありました。昔からどの国や地域にもその場所に根付いたオリジナルの医療があり、しかも昔は高貴な方への治療として始まったわけですから、首がとぶ覚悟で命をかけて治療をしていた医師たちがいたはずです。その医療はきっともの凄く洗練されていて効果があるのではと、日本の伝統医療である漢方に興味を持っていました。

ある時、漢方の勉強会に参加し、症例に関する質問をした際、「そのケースは西洋医学で」と言われ、「漢方はダメだな」と思ってしまったのです。

 

しかし、その後に出会った1人の中医師(中国の伝統医学である中医学を実践する医師)が漢方のイメージを180度変えてくれました。

私が産婦人科医局で勤務していた頃のことですが、遼寧中医薬大学の教授が博士号取得のために1年間来日されていたので、「本場の漢方医に教えてもらおう!」と、週に1度早朝勉強会を実施していただいたのです。当時、医局には20数名の医師がいましたが、参加者は3名ほどでした。1年間かけて中医学の基礎理論を教えていただきましたが、彼女から学ぶうちに衝撃を受け「これは本物だ! 中国にとんでもない医学がある」と思いました。

実は、私は「動脈硬化」を専門に研究しており、その研究で国際的な賞をいただく機会がありました。すでにアメリカ留学が決まっていたのですが、2001年9月の同時多発テロの影響で留学ができなくなってしまったのです。留学を断念し、すぐに遼寧中医薬大学付属日本中医薬学院へ入学し、併設のクリニックでは本場の中医師と働き治療を学ぶ機会に恵まれました。研究よりも中医学のほうが魅力的に感じ、今では中医学一直線というわけです。

 

 

 

診療記録のノートは財産

どの街にも漢方薬局はひとつぐらいあると思うのですが、その薬局で働く人たちはどこで漢方を勉強しているのだろうと、ふと疑問に思ったのがイスクラと出会うきっかけでした。こちらでも本場の中医師とともに診療するご縁をいただきました。

中国でも高名な中医師の診察などを見ていて思うのは、一言でいうと「宇宙人だな」ということ。知識量も尋常ではありませんが、様々な治療法を駆使して患者さんを治していきます。「なぜこの状態にこの薬を使うのだろう?」「なぜ良くなるのだろう?」と最初は疑問だらけでした。その先生は、「中西医結合」といって、西洋医学と中医学の双方の視点から患者さんを診察するのですが、漢方薬だけではなくサプリメントなども使います。ヒアルロン酸やサメ軟骨など「これは何だ」と思うような当時あまり知られていないものを、実際の流行の1年も前から導入されたりもしていて、新しいものへの探究心にも感心したものです。そんな凄い先生と5年程一緒に診療をさせていただいたいことは私の財産となりました。

イスクラ薬局での約10年にわたる診療記録の一部。「ノートを見ると当時の診療風景を思い出します。様々な症例がありますので読み返すと非常に勉強になります」と別府先生。

大学で「東洋医学の系統講義」を開始、単位を授与して

私のところに来られた患者さんには、複数の中医学的な治療を提案できますが、来なかった人には提案できない。臨床も大事なのですが、患者さんのことを考えたら、中医学を知り複数の診療法を提案できる医師を育てなくてはいけない、と思うようになりました。

そういったことから、一度退職した大学から講師として戻らないか、と話をいただいた際に、「東洋医学の系統講義をやらせて頂くこと」を条件としてお願いしました。約2年で大学の授業に東洋医学講座を年間9時間導入し、現在では16時間まで増やすことができました。学生達には、少なくとも「漢方薬というものがあって、西洋医学と考え方は違うが非常に効く。まじないでもなんでもない、しっかりとした医療があること」は理解して欲しいと思っています。

 

実際に中医学を知り、漢方薬を使えるようになるにはその講義だけではまだ時間が足りないので、10年ほど前から学生向けに250時間をかけた勉強会を開催しています。私の勉強会で学んだ学生が研修医時代に大学病院で勉強会を依頼されて講義をしたら、なんと教授まで参加されたという逸話もあり驚きました。医師になった際にしっかり漢方薬を使いこなせるよう教えている自信はあります。最近では、日本東洋医学学会でも教え子たちが発表しているのをよく見かけます。

セルフケア、家族のケアはもちろん漢方薬で

通勤は趣味の自転車。高校生の時、東京の国分寺から神奈川県の強羅(ごうら)まで行ったことも。現在は家族と泊まりでお台場や、ブランチを食べに原宿へ行ったりしています。

数えればきりがない、漢方で良くなった患者さんたち

西洋医療では治らなかったけれど、中医学的な治療で治った患者さんは数えればきりがないほどいます。今日、来られた50代の患者さんは、朝こわばる・関節が痛いなど、リウマチのような症状が1年前からあったのですが、西洋医学ではリウマチとは診断されず、治療法も示されませんでしたが、漢方薬で治療されるようになって1ヶ月でほぼ完治されました。

また、「赤ちゃんが欲しい!」という別の患者さんは胃腸障害が酷かったので、不妊治療の前に胃腸の働きを整える治療をしたら自然妊娠されました。疾患でなく、体全体のバランスを見る中医学だからこその症例です。漢方薬を西洋医学的に分析して、例えば麻黄(まおう)という生薬ならばその主成分のエフェドリンがどのように作用するかという考え方もありますが、単一の成分だけが効いているのではなく、麻黄もエフェドリン以外の物質がその作用を高めていたり、副作用を減弱させているかもしれないようにトータルでのバランスで考えることが中医学の知恵です。西洋医学的にはこうなるが中医学的にとらえるとこうなるといった確証を持って治療することが正しいあり方ではないかと思います。そんな医師が増えていったら良いですね。

(インタビュー:編集スタッフ 柳沢侑子)

 

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