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脾を健やかにして夏の食中毒・食あたりを予防する

2021.06.15 UPDATE

監修:楊 敏 先生(中医学講師)

高温多湿な梅雨や夏は、ウイルスや細菌、寄生虫などの食中毒・食あたりが増える季節。なかでもカンピロバクターなどの細菌性食中毒が増加し、嘔吐、下痢、腹痛、発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などのつらい症状を引き起こします。
今回は、そんな食中毒・食あたりを予防する中医学の知恵をみていきましょう。

脾が健やかになると腸管力も高まる

腸は胃で消化されたものを受け入れ栄養を吸収しながら、異物や病原菌の感染を予防します。
中医学で腸は、飲食物から栄養素を消化吸収し、良いもの(清)を心肺や全身へ運び、悪いもの(濁)を下に降ろし、外へ排泄するという、脾胃の働き「運化」・「昇清(しょうせい)」・「降濁(こうだく)」を担うと考えます。つまり、脾胃の運化機能が強ければ、腸管の消化吸収力や免疫力は強くなると考えるのです。

脾は温かい場所を好む!特徴に合わせた食中毒の予防法

中医学において脾胃は「喜温悪寒」(温かい状態を好み、冷たい状態を嫌う)の臓腑。
現代医学でも、消化酵素が活発に動く温度は37度前後と言われています。つまり、脾(胃・腸)が温かいと活発に動き、冷えると働きが鈍くなり異常をきたしやすいのです。お腹が冷えた状態だと、脾(胃・腸)の働きが低下し、食中毒や消化不良などの胃腸疾患にかかりやすくなってしまいます。
【基本の食中毒予防法】
(1)夏に冷たい飲食物の摂りすぎを避ける
飲み物には氷を入れず、冷蔵庫で冷やしたものは少し常温に戻してから摂るようにしましょう。アイスクリームは毎日食べるのを避け、食べても1日1個ぐらいに。ただし、もともと胃腸の弱い人は、アイスクリームや冷たい飲み物を控え、夏でも温かい飲食物にしましょう。

(2) 生ものは控え、サラダはドレッシングで工夫する

高温多湿の夏は「生もの」が腐りやすいため、刺身・寿司・レアステーキは控えるように。また、冷し中華などの冷食ばかりを食べていると、お腹を冷やして胃腸の働きが悪くなってしまいます。
冷たいものを食べるときは、体を温め殺菌効果のある食材を活用しましょう。
●しょうが、ミョウガ、ねぎ、玉ねぎ、にんにく、大葉、梅干しなどの薬味、わさび、唐辛子、お酢などの調味料 など
また、サラダは新鮮な野菜を使用して、お酢・バルサミコ酢など体を温める作用の調味料が入ったドレッシングをかけて食べると良いでしょう。胃腸の弱い人は、熱を加えて温野菜にすると◎。
●おすすめドレッシング
バルサミコ酢:オリーブオイル(1:3)の割合で、砂糖とレモン汁を少量加えてよく混ぜる。
※バルサミコ酢の代わりにリンゴ酢、食用酢でも可
夏に旬を迎えるスイカ・メロンは暑熱を取り除き、消耗した津液(水分)を補充するため、この時期にもってこいの食材。しかし、冷え切った状態で食べるとお腹を冷やしてしまうので、洗ってからそのまま食べるか、冷やしたものは少し常温に戻してから食べるようにしましょう。
(3) エアコンは長時間の使用を避け、温度設定に気をつける
脾の働きは冷気や冷風にも弱いため、長時間のエアコン使用や体に冷気が直接当たることで、食欲低下、軟便、下痢、むくみ、だるさなどを引き起こすことがあります。
エアコンは28℃くらいに設定、風向きにも注意し、適宜空気の入れ替えをするなど外の空気を感じましょう。夏に汗をかくと体の新陳代謝も高まるので、たまにはエアコンを切って体を自然に任せてみてくださいね。

脾は湿気が苦手?多湿な環境から脾を守る方法

脾は「喜燥悪湿」(乾燥した状態を好み、湿気を嫌う)であり、五行では土に属します。水分の多い沼のような土では多くの作物が育たないように、梅雨や夏の多湿環境では脾の働きが悪くなってしまいます。そのため、多湿の環境から脾の働きを守ることが大切です。

(1)水分の摂りすぎに注意する

汗をたくさんかく、或いは下痢のときは、脱水予防のために水分を多めに摂ってください。しかし、汗をあまりかいていないのに習慣的に毎日2L以上の水分を摂ると、脾の働きが低下してしまいます。食欲低下、軟便・下痢、腹痛、むくみなどが起こりやすくなるため、飲み過ぎには注意しましょう。
(2)健脾利湿の食物を上手に使う
中国の家庭では、真夏に清暑利湿(せいしょりしつ)・健脾安神(けんぴあんじん)の「緑豆とゆり根のスープ」を作ります。冷房や扇風機、冷蔵庫もなかった時代は、このスープで真夏の酷暑を凌いでいました。
※清暑利湿・健脾安神:暑気をうち払い湿を取り除く、脾を健やかにして精神を穏やかにする
【おすすめ食材】
冬瓜、ヘチマ、枝豆、空豆、いんげん、モロッコインゲン、緑豆、小豆、大豆、ハトムギ、長芋、春雨 など
【おすすめメニュー】
●緑豆とゆり根のスープ
●冬瓜・干しエビ・黒キクラゲの炒め物やスープ

夏こそ胃腸を温め、食中毒を予防しよう!

「夏のしょうが、冬の大根で医者いらず(夏はお腹を温め解毒・殺菌効果のあるしょうがを食べ、冬は消化吸収を促す大根を食べると病気にならず、医者は必要ない)」という、中国のことわざがあります。

しょうがは漢方薬の生姜(しょうきょう)としても使われ、脾胃の消化機能と肺の呼吸機能をよくしてくれる食材。
散寒解表(さんかんげひょう・風邪の治療)・温胃止嘔(おんいしおう・脾胃を温めて嘔吐下痢の治療)・化痰利水(かたんりすい)などの効能があり、とくに解毒作用もあるため、魚介類の食中毒(嘔吐や下痢など)にも使われてきました。食中毒予防のためにしょうがを薬味として、毎日の献立に活用してくださいね。

※軽い食あたり(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢)には、温かいしょうが湯がおすすめ。
もちろん、食中毒予防には、洗浄・消毒を徹底することが大切です。また、症状が出たら早めに病院で診てもらうようにしましょう。

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この記事を監修された先生

中医学講師楊 敏 先生

楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。