ココロとカラダ、音楽で健やかに〜五音療法〜 - 漢方・中医学の情報サイト|COCOKARA中医学

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ココロとカラダ、音楽で健やかに
〜五音療法〜

2024.10.15 UPDATE

監修:楊 敏 先生(中医学講師)

落ち込んだ気持ちを大好きな歌に救われたり、アップテンポな曲でなんだか元気が出てきたり……。そんな風に音楽で気分が変わる経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。実際に、音楽はこころと体にさまざまな影響をもたらすとされています。今回はちょっとユニークな中医学の音楽養生法をご紹介するので、楽しく心地よく、心身をセルフケアしましょう。

音楽には健康メリットがある?

“心身を癒す力がある”。そう信じられた音楽は、さまざまな形で病気の治療に用いられてきました。その歴史は古く、古代エジブトでは音楽は“魂の薬”と呼ばれ、旧約聖書には“ハープの音で病を鎮めた”などの記述があるほど。こうした療法は経験に基づくものでしたが、近年は「音楽療法」に関する研究が進み、“音楽は体に良い”ということが科学的にも解明されてきました。
例えば音楽を聴くと、感情や思考、運動などに関わる脳のさまざまな部位が活性化されます。また、自律神経に作用し、心拍数や血圧が変化することも。こうした影響が、精神の安定、不安や痛みの軽減、リラクゼーション、運動性の向上といったさまざまな効果につながると考えられています。

 

〜音楽は“薬の祖先”〜
音楽の「楽(樂)」の字は、“木製の台座に吊るされた鐘”を表したものという一説があります。古代中国では、戦う兵士の士気を高め、傷ついた人々のこころを癒すために、木の台座の上で青銅の釣り鐘を鳴らしたのだそう。これが「楽」の起源といわれ、その後、草にも病気を治す効果があることがわかると、「楽」に草冠が付いて「薬」になったと伝えられています。昔の人々にとっては、鐘が奏でる音楽も草も、“こころと体を癒すクスリ”だったのですね。
※漢字の成り立ちには諸説あります。

中医学の音楽ケアは「五音療法」

中医学にも、音楽による独自の養生法「五音療法」があります。約二千年前の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』にも記されたその療法は、五行説(万物は木・火・土・金・水の5つの要素に当てはまるとする考え方)に基づくもの。5つの音は五臓・五志に対応し、臓腑の働きや情緒に影響をもたらすと考えます。この基本をもとに体質に合わせた音楽を取り入れることで、心身を健やかに整えていくのです。五音には、それぞれ“楽しむのに最適な時間”があるのも興味深いところ。五音の音楽を聴くときは、下記を参考にベストなタイミングで聴いてみてください。

 

<五音療法の主な目的>
・五臓の働きを整える
・情緒を安定させる
・気、血、津液の巡りを整える

 

<五音の音階>
中国音楽の五音は、西洋音楽に当てはめると次の音になります。
宮(きゅう):ド
商(しょう):レ
角(かく):ミ
徴(ち):ソ
羽(う):ラ

五音を知って、こころと体を心地よく整える

脾胃を整える「宮」
宮(ド)を主音とする楽曲は、五行の土のように重厚感があり、抒情的でゆったり落ち着いています。「脾胃」(胃腸)の働きを促すとされるため、食事前後の1時間に楽しむのがおすすめです。
● 楽曲例「十面埋伏」

 

肺を潤す「商」
商(レ)を主音とする楽曲は、高らかに響くリズミカルなメロディーが特徴。乾燥のダメージを受けやすい「肺」を潤し、健やかに保つ効果があるとされています。
● 楽曲例「陽春白雪」

 

肝を養う「角」
角(ミ)を主音とする楽曲は、春の息吹のように優しく滑らかなメロディーが特徴。情緒をコントロールする「肝」の養うとされるため、ストレスを感じやすい人にもおすすめです。
● 楽曲例「胡笳十八拍」

 

心を養う「緻」
緻(ソ)を主音とする楽曲は、気持ちが明るくなるような軽快さが特徴。「心」に優しいメロディーとされ、眠る前、夜9〜11時くらいの時間にリラックスしながら楽しむのがおすすめです。
● 楽曲例「紫竹調」

 

腎を補う「羽」
羽(ラ)を主音とする楽曲は、五行の水のように、柔らかく清らかなメロディーが特徴。生命活動の源となる「腎」を補うとされ、加齢による不調が気になる人などにもおすすめです。
● 楽曲例「梅花三弄」

 

中医学の五音療法と、西洋医学の音楽療法。その考え方は異なるものですが、音楽が人のこころや体に良い影響をもたらし、健康維持に役立つという認識に変わりはありません。近年は五音療法の研究も進み、不安や憂うつといった情緒の改善に一定の効果があるとする発表もあるのだそう。美しい音楽は、古今東西変わらず人のこころに響くもの。現代の音楽療法も、中国ならではの五音療法も、それぞれの症状や体質に合わせて上手く取り入れられるといいですね。

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この記事を監修された先生

中医学講師楊 敏 先生

楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。