監修:楊 敏 先生(中医学講師)
今回のテーマは、中医学ならではの「目」と「五臓」のお話です。風の強い春先は、花粉やほこりで目のトラブルに悩まされることも多いもの。そんなときは、体の中から目を整える「五輪学説」を生かしてみて。目頭のかゆみ、白目の充血など、不調の起きた部位に応じてケアできるので、セルフケアのちょっとしたヒントになりますよ。
目は五臓全てからエネルギーを受けている
中医学には、「五輪学説」という考え方があります。これは、まぶた、結膜、瞳孔といった目の各部位は、五臓それぞれと深く関わっているというもの。目は五臓全てから精気(気・血・津液のエネルギーや栄養)を受けているため、臓腑の状態が関連する目の部位に影響するのです。
大きく捉えると、目全体と最も深く関わるのは「肝」です。肝は目に栄養や潤いを与える「血」を貯蔵しているため、肝が元気で血が十分にあれば、目はよく見えるとされます。各部位に分けると、五臓と目の関係は次の通りです。
【肉輪】上下のまぶた:脾(脾は肉を主る)
【血輪】目頭、目尻:心(心は血脈を主る。目頭と目尻は毛細血管が多い)
【気輪】結膜(白目):肺(肺は気を主り、白色と関係する)
【風輪】角膜、虹彩(黒目):肝(肝は風を主る)
【水輪】瞳孔、水晶体、網膜など:腎(腎は水を主る)
※「主(つかさど)る」とは、「担当する」「管理する」という意味。
五輪学説はあくまで基本となる概念ですが、中国の眼科では、現在でも五輪学説を念頭に置いて診察をしています。そうすることで目の状態から体内の不調を知り、目はもちろん、体全体を健やかに整えていくのです。「整体観」(体の臓腑や組織は互いに影響し合っていて、体全体でバランスを保っているとする考え方)を基本とする、中医学ならではの診療ですね。

五輪学説で目のケア
目の部位・症状のおすすめ食養生をご紹介します。目のトラブルは、体内に起きている不調のサイン。早めに気づくことで未病(病気の一歩手前)の改善にもつながるので、ぜひ五輪学説をセルフケアの参考にしてみてください。
※目に不調があるときは、まず眼科の受診を。その上で、食養生などのセルフケアをプラスしましょう。
【1:まぶた(肉輪)のトラブル】
まぶたのむくみ
「脾」の働きが弱く、水分代謝が落ちて「湿」(余分な水分)が溜まっている状態。
<おすすめ食材>
湿を取り除く:枝豆、はと麦、冬瓜、とうもろこし など
☆おすすめメニュー:じゃがいも、はと麦、冬瓜のスープ
まぶたが腫れて痛痒い(ものもらい など)
食べ過ぎ飲み過ぎなどで「脾」がダメージを受け、湿熱が溜まっている状態。
<おすすめ食材>
熱を冷まして湿を取り除く:きゅうり、なす、もやし、トマト、苦瓜 など
☆おすすめメニュー:きゅうり、トマト、苦瓜のスムージー
まぶたが下がって見えにくい(眼瞼下垂)
「脾」の虚弱で「気」(エネルギー)が足りない状態。
<おすすめ食材>
脾を元気にして気を養う:長芋、かぼちゃ、そら豆、にんじん、鶏肉、うなぎ など
☆おすすめメニュー:長芋、にんじん、鶏肉の炒めもの
まぶたの裏(結膜)に血色がない
「脾」の働きが弱く、「気」「血」を十分に生み出せない状態。
<おすすめ食材>
脾を元気にして気血を養う:レバー、ほうれん草、卵、にんじん、豚肉、牛肉 など
☆おすすめメニュー:レバーの焼き鳥とほうれん草のおひたし
【2:目頭・目尻(血輪)のトラブル】
目頭・目尻のかゆみ、赤み(花粉症 など)
「心」に過剰な熱がこもっている状態。
<おすすめ食材>
体内の過剰な熱を冷ます:苦瓜、緑豆、すいか、緑茶、蓮子心、くちなし など
☆おすすめメニュー:蓮子心入りの緑茶
睡眠不足による目の充血(不眠、多夢 など)
「心」に過剰な熱がこもっている状態。
<おすすめ食材>
熱を冷まして心の働きを整える:粟、白菜、卵、牡蠣、ゆり根 など
☆おすすめメニュー:ゆり根入りのかき卵スープ
ゆり根
【3:結膜(気輪)のトラブル】
白目の充血、痒み、涙が出る(結膜炎、花粉症などのアレルギー など)
「肺」が風熱の邪気に侵されている状態。
<おすすめ食材>
過剰な熱を冷まして邪気を追い払う:ごぼう、レタス、きゅうり、苦瓜、みょうが、菊花、ミント など
☆おすすめメニュー:ごぼう、レタス、きゅうりのサラダ、ミント添え
白目の出血(結膜下出血)
「肺」が過剰な熱でダメージを受けている状態。
<おすすめ食材>
過剰な熱を冷まして肺を整える:なす、大根、れんこん、なずな、きゅうり、くちなし など
☆おすすめメニュー:れんこんときゅうりの酢の物
【4:角膜(風輪)のトラブル】
目の痛み、異物感、涙目(角膜炎 など)
「肝」が湿熱の邪気に侵されている状態。
<おすすめ食材>
湿熱を取り除き肝を整える:苦瓜、春菊、セロリ、ミント、くちなし、あさり、おおばこ茶 など
☆おすすめメニュー:セロリとあさりの炒めもの、ミント添え
※角膜に異常を感じたときは、眼科を受診してください。
【5:瞳孔、水晶体など(水輪)のトラブル】
歪んで見えたり、急に視野が暗くなったり(眼底疾患)
「腎」の機能が衰えている状態で、「肝」の虚弱を伴うことも(腎肝両虚)。
<おすすめ食材>
腎・肝を養い元気にする:にんじん、ほうれん草、えび、あさり、牡蠣、あん肝、くらげ、枸杞の実、桑の実、黒ごま、菊花 など
☆おすすめメニュー:枸杞の実入りあん肝のしょうゆ煮、えびとそら豆の炒めもの
かすみ目、視力の低下(白内障 など)
「腎」と「肝」の働きが弱くなっている状態。
<おすすめ食材>
上記(眼底疾患)を参照
☆おすすめメニュー:菊花と枸杞の実のお茶

この記事を監修された先生

中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。