監修:楊 敏 先生(中医学講師)
一般的に立秋(2020年は8月7日)から9月上旬頃までが残暑の時期です。残暑といっても真夏のような暑さはまだ続きそうですね。
中医学では、寒くなる前に冬になりやすい不調を予防する「冬病夏治(とうびょうかち)」という考え方があります。
今回は、この考え方に沿って、冬に起こりやすいトラブルを未然に防ぐ暑い時期の過ごし方をご紹介します。
暑い時期の過ごし方が冬に影響を与える理由
中医学では、体を温めるエネルギーのことを「陽気」といいます。中医学のバイブル『黄帝内経(こうていだいけい)』で、「陽気者、若天与日」(陽気は人にとって天や太陽のようにとても貴重なもの)と記されるほど、陽気は健康・美容にとって重要な役割を果たしています。
陽気は冷風冷気・冷飲冷食によって損なわれるため、冬の寒邪の影響で陽気を損傷し、一般的な冬の不調を招きやすくなります。また、暑い時期にも体を冷やしてしまうと、陽気を養うことができず、秋・冬に影響し症状の悪化を招いてしまいます。
冬の不調を起こさない・悪化させないためには、暑い時期に陽気を損なわない生活を心がけることが大切です。
冷えにより招きやすい3つの症状
体が冷えることで、さまざまなトラブルが起こります。ここでは主な3つの症状を紹介します。
(1)冷え性
体が冷たい、人より冷えを感じやすい、秋・冬時期に霜焼けになりやすい など
秋・冬につらい症状ですが、実は暑い時期の過ごし方が大きく関係しています。長時間冷える環境にいるなど、体の芯まで冷えている状態が続いてしまうと、冷え性体質を招き、秋や冬に悪化しやすくなります。
(2)お腹の冷えと胃腸トラブル
冷えによる腰痛、膝痛、肩の痛み、肩が上がらない、四十肩・五十肩 など
関節の経絡に寒邪が入り込むことで、気血の流れを滞らせ痛みを引き起こす「不通則痛(ふつうそくつう)」の状態です。
気になっている症状があれば、まずは生活習慣から見直しましょう。
冬病夏治の心得(1)冷房の設定温度を上げる・風向きを調整する
一般に、室温は26~28度がもっとも体に負担のかからない温度だと言われていますが、冷房の設定温度をこの温度に設定しておけばいい、ということではありません。室温は冷房の設定温度通りになるとは限らず、また、風向きや湿度などによっても体感温度は変化します。外に出たときには、室温との気温差が大きいほど体への負担も大きくなります。
体が感じる暑さや冷えに合わせて、湿度・部屋に入る日差しなどの環境も整えながら、冷房も上手に活用しましょう。
冷房の調節が難しい場合は、上着やひざ掛けなど、体感温度に合わせて都度着脱しやすい防寒対策をとりましょう。
冬病夏治の心得(2)冷えた飲食物を避け、温性の食材を摂り入れる
冷たい飲食物は「脾」の陽気を損傷するため、胃腸のトラブルを感じるときは特に温かいものを摂るようにしましょう。食欲がないときに冷麺などを食べ続けると、消化機能を損なう原因となります。
お腹が冷えて痛みを感じるときは、熱湯を入れたペットボトルなどをお腹に当てて温めると、痛みが和らぐことがあります。
【冷えにおすすめの食材】
しょうが、ねぎ、玉ねぎ、シナモン、カルダモン、クローブ、こしょう、長芋、蓮の実 など
カルダモンは冷えだけでなく、ストレスにもおすすめです。
【冷えによる関節の痛みにおすすめの食材】
ウコン、紅花(べにばな)、田七人参、食用蟻 など
妊婦、妊娠の可能性のある方は紅花の摂取を避け、ウコン、田七人参、食用蟻などの活血薬の使用は事前に専門家へご相談ください。
【胃が弱い人は注意したい生姜湯・カフェイン飲料】
冷え対策として、生姜湯が中国でもよく飲まれています。
しかし、胃がもともと弱い人や、ストレスで胃を痛めている人には、刺激が強いしょうがやカフェインが合わないこともあるため注意しましょう。
胃に優しいカルダモンシードを入れたハーブティーなどがおすすめです。
カルダモン
冬病夏治の心得(3)体の外から温める
特に冷風・冷気による痛みには外から温かいものをあてると効果的です。
・冷えを感じたら早めに温かい風呂にゆっくり入る
発汗させ、体内に入り込んだ冷気を外へ追い払いましょう。
・「足三里(あしさんり)」にお灸する
膝頭の外側の下にできるくぼみから指4本下にあるツボです。
中医学的には、強壮補気・健脾和胃(胃腸の働きを改善する)・温通経絡(温めることで巡りが良くなる)・延命長寿の効果があるとされ、冷え性改善・虚弱体質改善に使われます。
中医学では「春夏養陽」(春・夏は陽気を養う)とされ、既に冷え性の体質である人は、暑い時期から、足三里へお灸することをおすすめしています。
この時期からの温活で、秋・冬を健やかに過ごしたいですね。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。