監修:楊 敏 先生(中医学講師)
よくわかる中医学vol.25
薬膳と聞くと特殊な食材を手に入れて、手間暇をかけて作るというイメージがあるかもしれません。確かに体質や症状に合わせ、食材一つ一つを吟味し、オーダーメイドの薬膳料理を作る場合は、知識や技術が必要とされます。しかし、初心者や忙しい方にはハードルが高く、何より続けられないと意味がありません。
今回は、そんな方でも手軽に毎日の食事に薬膳を取り入れられる「これだけは知っておきたい薬膳のポイント」をご紹介します。
中医学でみる「予防医療」と「食事」の関係
その中でも、「医食同源」「薬食同源」という言葉があるように、健康を支えるものとして食事が大変重要視されています。
食事で健康管理を行う「食養生」の考え方は、中医学の長い歴史を通して発展してきたのです。
薬膳で食養生の基本(1)人の体質を知る
食養生は、その人の体質・食事する時間・環境などさまざまな要素を考えて調整することが大切です。自分に合っていない食事を摂りすぎると逆効果につながることもあります。
簡単な例えとして、冷え体質の人には温性の食材が向きますが、熱がこもりやすい体質の人が温性の食事を摂りすぎるとエネルギー過剰になってしまうことも。湿気が多い気候のときは利水作用のある食事を摂り入れるなど、体質以外の要素も必要な判断材料です。
テレビなどのメディアで「体にいい」と紹介されていても、自分に合っているかどうかは別問題。まずは、自分の体質を知ることから始めましょう。
薬膳で食養生の基本(2)食材がもつ性質「五性」
前述したように自分に合った食材を摂り入れるには、食材そのものの作用を知ることが大切です。薬膳料理は、食材がもつ「五性・五味」の作用をかけ合わせながら、体質や体調に合わせ作られています。
・五性…寒性・涼性・平性・温性・熱性
(1)寒涼性
涼性…豆腐、緑豆、はと麦、きゅうり など
(2)平性
(3)熱温性
体を温める、冷えを取り除く、経絡をあたためて気血の流れを良くするなどの働きがあります。顔色が白っぽい、冷え体質、血行やリンパ液の流れが悪く痛みがある、冷えると痛みが酷くなる、色のうすい鼻水や痰がでるなどの症状がある人に向いています。
【熱温性の食材】
熱性…羊肉、唐辛子、シナモン、山椒 など
温性…しょうが、玉ねぎ、かぼちゃ、えび など
薬膳で食養生の基本(3)食材がもつ味「五味」
発汗、解熱、気血の巡りを良くする、とりすぎると熱くなり気を消耗する
滋養強壮、消化器の働きを改善、痛みを和らげる、とりすぎると胃腸の働きや骨を弱める
(3)酸味
自律神経のバランスを整える、イライラ・不安などの症状を改善、ひきしめ、とりすぎると胃腸の働きを弱め筋肉が萎縮
(4)苦味
余分な熱を取る、高ぶった神経を鎮める、利尿、とりすぎると胃腸の調子を崩す
苦味の食材…苦瓜、緑茶、ピーマン、セロリ など
しょっぱい味のこと。しこりや塊を柔らかくしたり小さくする、便秘改善、ホルモンの働きを良くする、とりすぎると血の巡りが悪くなる
鹹味の食材…牡蠣、はまぐり、あさり、いか など
これから食養生を始める方へ
3つの基本を勉強してきましたが、具体的に自分の体質にあった食材をどう選べば良いのか、難しく感じられると思います。これから食養生を始めたい方は、まずは簡単なことから始めてみましょう。
・基本的に冷たい飲食物は避ける
・三食食べる時間は規則正しく、夕飯はできれば21時までに済ませる
・「脾胃(ひい)」(胃腸)が弱い人(脾気虚)は長芋がおすすめ、日本人に多いタイプです
・生理中は、「血(けつ)」を増やし巡りを促すことを心がけましょう。
血を増やす食材…レバー、ほうれん草、小松菜、加熱した牡蠣 など
血の巡りを促す食材…黒きくらげ、玉ねぎ、ねぎ、にら など
できることだけでも継続していくと、自然と習慣として身につくようになります。ぜひトライしてみてください。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。