監修:楊 敏 先生(中医学講師)
よくわかる中医学シリーズ、今回のテーマは「整体観(せいたいかん)」です。
「整体観」とは、物事を俯瞰(ふかん)しながら全体的に捉えるという中医学の基本的な考え方の一つ。人は自然の一部であり、気候や季節など自然の変化の影響を受けていて、かつ、人も一つの自然であり、内部でさまざまな部位が影響しあっていると考えます。中医学は外部と内部どちらのバランスも重視される医学です。
整体観を知ると、身体の仕組みも紐解くようにわかってきます。ここでは整体観についてわかりやすくお伝えしていきます。
整体観の考え方①季節に順応して健康を保つ
そもそも中医学とは、古代天文学・地理学・自然科学から発展してきたもの。天体の動き、地球の季節・気候の変化などによって、人の身体がどんな反応をしているのかを深く観察することから始まりました。
中医学のバイブルである「黄帝内経(こうていだいけい)」によると、この観察によって「天人合一(てんじんごういつ)」という考え方が生まれました。「天人合一」とは、人間は自然界の恵みを受けて生かされているものなので、自然環境や季節・気候の変化に順応すれば健康を保つことができ、順応しなければ身体に必ず異常が生じて病気になってしまうということ。
生命誕生から長い時間の流れの中で、人間は厳しい環境とさまざまな危険や困難とぶつかりながら、自然環境に順応する機能を体に備えてきました。
最も身近な例を挙げると、一定に保っている体温の恒常性。暑い夏は皮膚の血管を拡張し、発汗させて熱を発散しますが、寒い冬は血管を収縮させ、散熱を減少させて体温が下がらないようにします。これは、気候に順応するために身体が神経・体液を調節しているからです。
しかし、現代では寒い季節でも薄着をしたり、アイスなどの冷たいものを一年中食べていたりします。季節に反する生活習慣によって、冷え性や胃腸虚弱などの体調不良を引き起こしてしまうのです。
整体観の考え方②人間は経絡によって全体的に繋がっている
例えば、体内の水分代謝が悪いときに、中医学では「腎」のほかに、「脾(ひ)」(胃腸)・肺の機能にも異常があることを疑います。漢方相談を通して判断することになりますが、異常のあるすべての臓腑に正しく対処することで、水分代謝そのものの異常だけでなく、それによって引き起こるむくみなどの症状も改善することができるのです。
整体観によると、人のこころと肉体も一つに繋がっているので、こころの悩みがあれば必ず肉体の不調に繋がります。うつ病やパニック障害にも、臓腑や気血の異常を探り出すことが重要です。
健康を保つ秘訣は身体のシグナルに気がつくこと
健康を保つための生活習慣に活かされている中医学の知恵は、「整体観」のような長い歴史に裏付けられた考え方をもとにしたものです。
身体のシグナルを見つけることで、症状が悪化する前に対処することができます。忙しくて生活のリズムが崩れがちな方ほど、日頃から自分の身体に向き合う時間を作ってみましょう。
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。