監修:楊 敏 先生(中医学講師)
忙しい毎日につい食事が疎かになったり、好きなものばかり食べてしまったり……。気がつくと、現代の食生活はなにかと乱れていることも多いもの。今回は、食で体を整える「食養生」について体質別のアドバイスをお届けします。ちょっと意識することで不調の緩和にもつながるので、ぜひ日々の食事の参考にしてください。
体質に合った食材選びが大切
「食養生」は、言葉の通り“食で体を養う”ということ。中医学では「薬食同源(薬と食べ物とは源が同じ)」とも言われ、日々の食事は健康と深く関わっていると考えます。その上でまず大切なのが、自分の「体質」を知ること。一般に体に良いとされる食べ物も、万人に当てはまるとは限りません。例えば、トマトは“熱を冷ます”食べ物。体に良いイメージがありますが、冷え体質の人が積極的に食べると、さらに冷えやすくなってしまうこともあります。このように、食養生は自分の体質や体調に合わせて食材を選ぶことが大切です。とはいえ、栄養が偏ってしまっては本末転倒。基本はさまざまな食材をバランス良く、その上で“今の体に必要なもの”を積極的に取るよう心がけてください。
“健康”ってどんな体質?
中医学では、人の体は「気(エネルギー)」「血」「津液(しんえき)」から成り立っていると考えます。これらがバランスよく十分にあって、体内をスムーズに巡っていれば健やかな状態が保たれます。
【気・血・津液のバランスが整った健康体質】
・肌の血色が良い
・筋肉がしっかりある
・元気で、疲れても休めばすぐ回復する
・食欲がある
・排尿、排便がスムーズ
・よく眠れる
・月経が順調で生理痛がない
・舌は淡い紅色、舌苔は薄く白い
反対に、気・血・津液のいずれかに過不足があったり流れが滞ったりすると、さまざまな不調が現れるように。こうした体質は「未病」と言われ、病気になる一歩手前の状態。放っておくと病気にもかかりやすくなってしまうので、日々の養生で改善することが大切です。
体質別の「食養生」〜虚証編〜
今回は、気・血・津液が足りない「虚証」体質の食養生についてご紹介します。体質は、遺伝的要因と後天的要因(食事や生活習慣)からつくられるもの。遺伝的要因を変えることはできませんが、食事や生活習慣を整えることで体質は改善していけるので、諦めず積極的にケアしましょう。
①疲れやすい「気虚」体質
活動のエネルギーとなる「気」が不足しているタイプ。疲労感、倦怠感、息切れ、声が弱々しい、汗が出やすい、手足が冷えやすい、食欲不振、軟便・下痢、頻尿、舌が厚く色が淡い、といった症状が現れます。
[おすすめ食材]
山芋、じゃがいも、にんじん、かぼちゃ、キャベツ、おくら、大豆、アスパラガス、ブロッコリー、カリフラワー、卵、牛肉、鶏肉、うなぎ、かつお、きのこ類、りんご、棗 など
☆生薬:薬用人参
“補気の王様”とも言われ、気を養う代表生薬。夏バテ気味なときは、薬用人参茶(人参スライス3枚程度に熱湯を注ぐ)もおすすめ。
●おすすめメニュー
・長芋とおくらのねばねばサラダ
・牛肉としいたけのそぼろ ★牛肉の補気作用は薬用人参にも匹敵
②体が冷える「陽虚」体質
体を温めるエネルギー「陽気」が不足しているタイプ。気虚体質の症状に加え、強い冷え、しもやけ、レイノー現象、むくみ、夜間頻尿、女性の不妊症、舌の色が淡い・むくんで歯跡がはっきりつく、といった症状が現れます。
[おすすめ食材]
「気虚」体質の食材に加え、しょうが、長ねぎ、玉ねぎ、みょうが、にら、らっきょう、にんにく、黒豆、えび、さば、さんま、山椒、シナモン、栗、くるみ など
☆生薬:桂枝(シナモン)
体を温め、痛みを和らげる生薬。冷え症、冷えによる腹痛や生理痛などがつらいときは、シナモン入り紅茶を。
●おすすめメニュー
・えび、にら、ブロッコリーの炒めもの ★にらは“起陽草”と呼ばれ、陽気を養う代表食材
・茹で栗を添えたうなぎ丼(山椒をふって)
③めまいや動悸「血虚」体質
体に栄養や潤いを与える「血」が不足しているタイプ。めまい、動悸、かすみ目、物忘れ、手足のしびれ、足のつり、肌や髪の乾燥、抜け毛、白髪、月経量が少ない、舌が痩せて色が淡い、といった症状が現れます。
[おすすめ食材]
レバー、ほうれん草、小松菜、金針菜、黒米、ひじき、黒ごま、牛肉、羊肉、まぐろ、かつお、ブルーベリー、プルーン、レーズン、いちご、桃、枸杞の実、棗、栗 など
☆生薬:当帰
血を養い、巡りを良くする生薬。月経不順や月経痛、不妊症などに幅広く使われ“婦人科の聖薬”とも呼ばれます。
●おすすめメニュー
・栗とひじき入りの黒米ご飯
・羊肉のしゃぶしゃぶ(棗と枸杞の実を入れて) ★羊肉の補血作用は熟地黄(生薬)にも匹敵
④肌がカサカサ「陰虚」体質
体内の潤い成分が不足しているタイプ。のぼせ、ほてり、寝汗、耳鳴り、ドライアイ、ドライマウス、空咳、肌の乾燥、便秘気味。舌が紅く裂け目がある、舌苔がほぼない、といった症状が現れます。
[おすすめ食材]
牛乳、豆乳、豆腐、れんこん、トマト、ゆり根、豚肉、鴨肉、すっぽん、あわび、はまぐり、ほたて、杏仁、梨、すいか、メロン、レモン、松の実、白ごま、白きくらげ、菊花 など
☆生薬:鼈甲(すっぽんの甲羅)
潤いを養い、熱を冷ます生薬。ほてりやホットフラッシュなどがつらいときは、すっぽんの薬膳鍋がおすすめです。
●おすすめメニュー
・れんこんの肉詰め
・豆乳プリン、白きくらげ・枸杞の実添え
この記事を監修された先生
中医学講師楊 敏 先生
楊 敏(よう びん)
上海中医薬大学医学部および同大学院修士課程卒業。同大学中医診断学研究室常勤講師・同大学附属病院医師。
1988年来日。東京都都立豊島病院東洋医学外来の中医学通訳を経て、現在、上海中医薬大学附属日本校教授。日本中医薬研究会や漢方クリニックなどの中医学講師および中医学アドバイザーを務める。
主な著書に『東洋医学で食養生』(世界文化社・共著)『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』、『(実用)舌診マップシート』(東洋学術出版社)など。